いいものを大切にしたい気持ちはあるけれど、毎日の選択となるとコスパやタイパを優先してしまうことも多々あったり。そんな子育て真っ盛りのVERY世代の現在地に立って、50年変わらず大切にしてきたアニエスベーの姿勢、消費社会を専門とする立命館大学・藤嶋先生の視点をヒントに、改めて服との向き合い方を考えてみました。
アニエスベージャパン株式会社 PRに聞きました
トレンドよりも大切にしてきた、変わらない価値観
長く着る、受け継ぐーー
そんな体験も、服の大切な役割のひとつ
撤退の先に求めたのは対立ではなく対話。考える、そのきっかけに
ー先日、アニエスベーがフランスの百貨店で、ウルトラファストファッションブランドの開業日に休業、撤退を表明。世界中で大きな反響を呼びました。その真意について、アニエスベージャパン株式会社でPRを担当している嘉根美沙さんにお話を伺いました。
「アニエスベーは1975年創業時から現在まで創業者アニエス・トゥルブレがデザイナーとしてブランドを率いています。彼女の『地球を大切にしたい』『服をまとう喜びや自由を守りたい』『ものを大切にする心を守りたい』という想いは、50年間変わらない理念です。そもそもブランドの出発点は、トレンドを生み出すことではなく、価値観を共有すること。大量生産・大量廃棄や、生産が環境や人に与える影響についても以前から警鐘を鳴らしてきました。過去にはアニエス自身が“I HATE FAST FASHION”と手書きのメッセージでSNSに投稿したことも。今回の決断も、その姿勢の延長にある、ブランドとしての意思表示でした」
ー経営的にはマイナスになり得る判断に、社内から反対の声があがらないのは、なぜですか。
「創業以来、大切にしているのが“むやみに利益を追うより、無駄を出さない”という姿勢。環境問題のイメージが強いサステナビリティですが、ビジネスが長く続いていくことも含まれます。利益を出すからこそ、社会や地球に還元できる。そのバランス感覚を社内で共有しています」
ーブランドとして迷いなく意思表示ができる強さは、どこからくるのでしょう。
「日々の積み重ねです。2021年にフランス本国で策定された『環境憲章』では、素材選びの基準や社員が取り組む行動を明文化し、全員で共有しています。さらに取引先にも、労働環境や安全性を示す『倫理憲章』への署名をお願いしています。身近な例では、オフィスに置かれるゴミ箱は最小限。ペットボトルを捨てる場所もないので自然とゴミを出さない、マイボトルを持参する環境に。理念だけでなく、日々の習慣にまで落とし込まれているからこそ、今回の撤退もブランドらしい姿勢として受け止められたのだと思います」
ー“撤退”という強いアクションを通して、伝えたかったことは何ですか。
「アパレル産業が大きな環境負荷を抱えているという事実がまだ十分に知られていないからこそ、明確な理由とともに発信することに意味があると、社としては考えました。否定するためではなく、まずは知ってもらって一緒に考えるきっかけをつくるためでした」
自分で選んだ「服との関係」を楽しむ。
長く着て、受け継ぐ価値観を次世代に
ー日本の公式Xでは、これまでにない反響を記録。ポジティブな声も寄せられたそう。とはいえ、おしゃれも楽しみたいし、子どもの服はすぐにサイズアウトしてしまう。環境を意識し続けるのは簡単ではありません。
「だからこそ、ただ“消費”するのではなく、“自分が選んだ服と関係を築く”という感覚を持てるかどうかが大事なのではないでしょうか。その基準のひとつが、『長く愛用したいか』。アニエスベーの服は、実際に同じ一着を何十年も着続けている人が社内には少なくありません。20年着ているレザージャケットを買った時期も、気持ちも覚えている。そうして自分だけの“服との関係”を築くことこそがファッションの楽しさでもあると思います。また、アニエスベーのキッズラインは、若くして母になったアニエス自身の経験が原点になっています。『次世代を担う子どもたちは世界を変える力を持っている』。その想いから、次の世代の土台作りとして、子ども服にも『丈夫で安全な素材』『トレンドに左右されないデザイン』を選んでいます。サイズアウトしても、きょうだいや次の誰かへとつながっていく。そうした循環の中で、子どもたちが自然と“ものを大切にする姿勢”を学んでほしいという願いも込められています」




創業者でありデザイナーでもあるアニエス・トゥルブレは、もともと仏版『ELLE』の編集者。1979年に誕生し、40年以上愛され続けるカーディガンプレッションや、ラガーシャツを着想源にしたボーダーTシャツなど、時代に左右されないデザインは今もブランドの核となっています。ブランドの理念に基づき、社会貢献や環境問題にも早くから目を向けてきました。現在も、海洋環境問題が専門の科学者とともに調査するタラ オセアン財団の活動を継続的に支援しています。
立命館大学 藤嶋陽子准教授に聞きました
安さと便利さの時代に子どもたちに示したい「服との関係」
何を選んでどう着るかどのように愛するか。服との付き合い方は家庭でできる“消費教育”
いいものを長く大切にしたいと思っていても、いざとなると迷ってしまう―それは意識が低いからではなく、忙しい日々の中で、時間やお金、余裕とのトレードオフで選んでいるから。仕方のないことでもあります。
でも、消費とは「欲望との付き合い方」。そこには、その人の価値観が表れます。「新しいものが欲しい」「もっと欲しい」。その欲望を倫理という正しさで否定するだけではなく、どう向き合っていくのか。「安さ・早さ」に流されず一度立ち止まる。私たちが悩み、考える姿そのものが気づきになるはずです。
服選びは、失敗しても命に関わるわけではないからこそ、自分の感性で選ぶ経験ができる。子どもに良いものを見せたいと美術館に連れて行くように、“いい”と思う服を選び、大切にする姿も、子どもに対するメッセージとなります。一度にすべてを変える必要はありません。まずは“一着”から。思い入れのある服を大切にする。値段や量ではなく、「向き合い方」が豊かさだと、日々の選択の中で伝えていけたら。そんな積み重ねが、子どもの中に残っていくのではないでしょうか。
話してくれたのは…

藤嶋陽子さん(立命館大学准教授)
ロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズでファッションを学んだ後、東京大学大学院 学際情報学府にて博士号を取得。ファッションとテクノロジー、消費文化の関係が専門。現在も実務と研究の両面からファッションと消費文化の関係を探究している。
資料写真提供/アニエスベー 取材・文/増田奈津子 編集/鈴木貴子
*VERY2026年4月号『アニエスベーに学ぶ「服への態度」』より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のもので、変更になっている場合や商品は販売終了している場合がございます。









