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「お母さんも人間だから」「ダメなことほどしたくなる」作家・西加奈子さんのごまかさない育児

故・谷川俊太郎さんとの共著も話題の小説家・西加奈子さん。現在小学生のお子さんを育てる西さんは、「ごまかさない」「本音と建前があることも子どもに隠さず話す」ということを意識しているそう。お子さんとの過ごし方、情報過多の時代に、スマホやSNSとあえて離れて作る「一人の時間」についても伺いました。

子どもをごまかしたくないから、本音も建前も正直に

──現在、小学校低学年のお子さんの育児中という西さんですが、子どもに対して「これはやらないようにしている」と意識していることはありますか。

「何事もごまかさない」ということだけは、気を付けています。自分の言動に本音と建前があったとしたら、それも包み隠さず子どもに話します。カナダにいた頃、子どもが公園で靴下を脱いで遊び始めたことがありました。私はべつに裸足でもいいと思っていたけれど、近くにいたお母さんたちが「足に何か刺さったら危ないから、靴を履きなさい」と子どもに声をかけてくれて。そのときは正直に、「お母さんは裸足でいいと思っている。でも、よそのママがそう言うのもわかるし、お母さんは空気を読んで君に、『あかんで』って言っているだけやで」とつい本音を言ってしまいました。子どもがやりたいことって、私自身も「やりたいやろな」って共感できることが多いんです。電車で吊り革にぶら下がりたくなるとか、私が子どもだったらやっていたと思います。だから「お母さんも本当はやりたいと思っている。でもまわりにめっちゃ迷惑がかかるかもね」と正直に話します。

 

──本音と建前が混在していることに、お子さんが混乱するようなことはなかったのでしょうか。

まだ幼児期だったので、多少混乱はしていました。それでも「お母さんは嘘をつかずに本当に思ったことを言っている」という点だけは子どもに伝わった感覚ががありました。
家庭の中のルールについても同じです。大人になったら、なんでも自分で決めて、自分で責任を取ることができる。だから、成長したそのときは好きにしたらいいと思っています。
でも、今は残念ながら違う。夜に歯を磨いてほしいときは、「お母さんは正直、歯を磨いた後にアイスを食べることあるけど、虫歯にもなってめっちゃ後悔した。君の気持ちはわかるけど、今はきちんと歯を磨いてほしい」と、自分の経験や思いも全部伝えて説得します。お母さんだって一人の人間だし、嘘をつくことや失敗することだってある。それをできるだけ早くわかってほしいと思いました。これが教育上、いいことなのかどうかはわからないです。でも私は親として100%子どもの味方でいると決めた上で、一人の人間として正直に接していたいです。

 

──そこまで風通しがいい親子関係なら、お子さんを怒るようなこともなさそうに見えます。

そんなことはないですよ。嘘をつかれたら、「なんで嘘つくん?」ってめっちゃ腹が立ちますし。ほかにも、家族や友人たちと楽しく過ごしているときに「つまらん」って言われたら、それも怒ります。怒るというより、「そんなことを言われたら、私は悲しい」というふうに、自分の気持ちを伝える努力はしますが。でも、自分の体調やコンディションで、つい怒りすぎてしまったなと思うこともあります。そんなときは後で必ず「さっきはほんまに腹が立ったのもあるけれど、全然違うことでもイライラしてた。ごめんね」と謝ります。怒ったことをなかったことにしないけれど、その理由はきちんと整理して、早いうちに謝る。それもごまかさないでいることの一つだと思っています。

子どもと同じ空間で、読書をする時間が好きです

──育児と仕事の両立についても伺いたいです。日々の生活の中での役割分担は、どんなふうになっていますか。

育児のことは、夫がほとんど担ってくれています。夕飯やお弁当は私がつくるなど、きっちり役割分担というよりもそれぞれができることをやっている感覚です。子どもが学童にも行くようになったので、まとまった仕事時間や一人の時間も今までより作れるようになりました。子どもが小学生になって、ずいぶんラクになったように感じます。なにより、お迎えに行かなくても自分一人で歩いて帰ってくるようになったことがありがたくて。「子育てしんどいな」と感じていた時期は、もう卒業した感覚があります。

 

──そんな日々の中で、西さんはお子さんとどんなふうに過ごす時間が好きですか?

同じ空間にいるけど、それぞれ別のことをしている時間に幸せを感じます。子どもも自分で本を読むようになってきたので、二人でソファに座って、それぞれに好きな本を読んでいる時間があるんですよ。会話はしていなくても、こういう時間の過ごし方は私にとってとても大切です。

 

──子育てのお話を伺っていると、「子どもに正解を押しつけない」という姿勢が一貫しているように感じます。ご自身が触れる情報についても、意識して距離を取っている部分はありますか?

今の時代はあらゆる情報が多すぎると感じています。私は基本的にSNSをやっていないのですが、カナダに住んでいた頃に、政治や社会問題への関心から見ていた時期がありました。尊敬している人が、どんな意見を持っているのかも気になっていたんです。でも毎日目にするうちにだんだん、その人の意見が自分の意見であるかのように錯覚してしまう感覚になってきて……。なんだか怖くなって見るのをやめました。
私はこれまでの人生で間違えることも多かったし、人を傷つけてきたこともありました。そうした失敗を積み重ねて、やっと自分なりの答えを見つけてきたのに、今は、経験がなくても一瞬で情報をインストールした気になってしまう。そんなことはやっぱりあり得ないと思うんです。

SNSをやめて、改めて見えたこと

──気付かないうちに「こう考えるべき」「こう選ぶべき」と情報に引っ張られていってしまう感覚があるかもしれませんね。

好きなこととかやりたいことって、本当は自分にしかわからないはずなのに、ファッションやメイクではタイプ別診断も人気ですよね。自分に合うものを知るための選択肢としてはもちろん素晴らしいけれど、本当は黒が好きなのに「オレンジ色が似合う色」と言われ、そっちのほうが好きなのだと思い込むようになったらちょっと怖いです。SNSに関して苦い経験があったからこそ、改めて「自分の意見も好きなものも、自分で決めたい」と強く思うようになりました。
だから、誰の声も入らない時間、無音の時間をすごく大事にしています。何かをしない時間というより、情報を入れない時間です。そうすると、自分は本当は何が好きで、何が嫌いか、少しずつ見えてくる気がするんです。

 

──西さんにとっての「無音の時間」は読書の時間になるのでしょうか。

読書時間って、情報を取りに行っているわけではありません。とても静かな作業です。時々耳がキーンとするくらいの孤独を感じて、それがとても贅沢に感じられます。

 

──孤独と聞くと、少し身構えてしまいますが……

哲学者・ハンナ・アーレント(※)が「孤独と寂しさは違う」と語っていたのが、とても印象に残っています。孤独は一人でいる状態そのものではなく、自分の中にもう一人の「考える自分」がいて、対話ができている状態。一方で寂しさは他人だけでなく、自分とも切り離されて何も思考できない状態だそう。情報に囲まれて寂しくなるよりも、私は私の孤独を抱きしめながら、自分がどう生きたいかを自分で決めたい。それはこれからも大切にしていきたいことです。

※ハンナ・アーレント(1906~1975)ドイツ系ユダヤ人として生まれ、ナチス政権下のドイツからアメリカ合衆国に亡命。『全体主義の起源』などの著作が近年ふたたび話題に。

『すきが いっぱい』(世界文化社)

詩人・谷川俊太郎さんと、作家・西加奈子さんが交互に詩を贈り合う……。そんな「詩の往復書簡」から生まれた子どもも大人も一緒に楽しめる一冊です。あとがきと挿画は西加奈子さんの書きおろし。

 

(PROFILE)
西 加奈子(にし かなこ)
1977年イラン・テヘランに生まれる。エジプト・カイロ、大阪で育つ。2004年『あおい』でデビュー。2007年『通天閣』で織田作之助賞、2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、2015年『サラバ!』で直木賞を受賞。初のノンフィクション『くもをさがす』を滞在先のカナダにて執筆し、2023年に刊行。

谷川 俊太郎(たにかわ しゅんたろう)
詩人。1931年東京に生まれる。1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。『六十二のソネット』『定義』『私』『どきん』等、刊行された詩集は100冊以上にも及ぶ。翻訳に『マザー・グースのうた』やピーナッツシリーズ、絵本に『へいわとせんそう』『もこ もこもこ』他、著書多数。2024年92歳で永眠。

取材・文/樋口可奈子 撮影/猪俣晃一朗

 

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