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映画『ふつうの子ども』呉美保監督インタビュー「かつて出産と仕事を天秤にかけたことも」

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映画監督として活躍する呉 美保さんですが、かつてはキャリアのために無茶をしたり出産と仕事を天秤にかけなくてはいけない場面に遭遇したそう。そんな呉さんの最新作、『ふつうの子ども』。子育てと仕事に邁進するママが描く“ふつうの”子どもとは。今これを撮った理由にも迫りました。

[家族のコトバ]

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私が仕事も育児も突っ走るタイプなので、夫はストッパーであり心の支えです。

からのコトバ
(公開初日にひとりで観て)
「すごくリアルで、気が気じゃなかった」

昨年公開された『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で、2度の出産を経て、およそ9年ぶりに長編映画に復帰しました。その9年という歳月のなかでさまざまな経験をし、ようやく「母になった私だからこそ撮れる映画」「今の自分だから撮りたい映画」が見えてきたような気がしています。
この9月5日に公開された最新作『ふつうの子ども』は、母になって2作目の長編映画。描きたかったのは、子どもたちが自分の感情にまっすぐ向き合いながら、大人たちと関わっていく姿。そのまなざしを通して、大人が自分の子ども時代をふと思い出せる作品です。今だからこそ、「大人と子どもが一緒に観られる上質な映画」を届けたかったのです。

無茶をした第一子出産後、
映画を降り第二子出産

第一子出産前に撮った映画が嬉しいことにモスクワ国際映画祭に出品されることになったのですが、渡航したのは出産の20日後。子どもを産んでも変わらず映画を撮り続ける。それを当然のように思っていた私は、そんな無茶なスケジュールさえ映画監督としてのキャリアには必要だと思っていたし、自分なら大丈夫とも思っていました。しかし、そんな過信はもろくも崩れます。帰国後、体力的にも精神的にも余裕がなくなり、持病の喘息が悪化。顔色は常に土気色。CMなどの仕事もキャンセルせざるを得ないような状態がしばらく続き、長編映画なんてもう一生撮れないかもしれないと本気で思っていたとき、ある映画のオファーが届きました。とても心が動く企画で、脚本家ともタッグを組み、キャストもある程度決まりかけていました。でも私自身はそのとき42歳。2人目が欲しいと思い妊活中であることをプロデューサーに正直に伝えたところ、こう言われました。「今妊娠したら、キャストのスケジュール全部崩れるよ?この映画、やれないよ?」と。子どもを産むことも、映画を撮ることも、自分にとってはどちらもかけがえのない人生のプロジェクト。天秤になんてかけられないはずなのに、そのとき私は、二者択一を突きつけられたような気がしました。結果として、命を産むという選択をしたことに後悔はまったくありません。そしてその選択が、否が応でも2人の息子の育児にどっぷり向き合う日々へとつながり、のちの映画制作内容にも影響を与え、そして自分の働き方を見直すきっかけにもなりました。

映画監督の呉 美保さんの息子2人
映画監督の呉 美保さんと映画に出演した子どもたち
最新作『ふつうの子ども』の前でポーズをとる映画監督の呉 美保さんと主役の嶋田鉄太さん

長男と次男は5歳差。長男が3歳の頃「弟か妹がほしいな」と言われ妊活することを決めました。

子どもの演出は予想外のハプニングばかりですが、それをも楽しみながら撮影しました。

9月5日に全国公開された最新作『ふつうの子ども』。主役を演じた嶋田鉄太くんはじめキャストと舞台挨拶に立ちました。

誰もが事情を抱えている
そんな当たり前に気づき
現場の慣習も見直し

子ども2人を育てながら映画を撮るのは、正直ものすごく大変。映画『ある男』で俳優の安藤サクラさんが日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞したときの感動的なスピーチは、私自身も一生忘れられません。「子育てと映画の撮影は両立できない」彼女はそう、はっきり言ってくれた。涙が出るほど救われました。「子どもがいても、まわりの協力のおかげでできました!感謝しています」ではなく、「できません」と言い切ってくれたその言葉の強さに励まされたのです。子育てって、本当に思いどおりにならない。社会のしくみや環境も、まだまだその現実に追いついていない。だからこそ、あの一言が私には強く響きました。
今回の映画制作に取り掛かったとき、プロデューサーの菅野和佳奈さんにも、自分の状況を率直に伝えました。子どものお迎えがあるから9時〜17時でしか動けないし…と。すると彼女は「子育てしている呉さんだけじゃない。介護をしている人、持病で通院している人、家庭の事情を抱えている人、誰もが何かを抱えている」。そんな“当たり前”をさも普通に言葉にしてくれたとき、「そっか、私ひとりじゃないんだ」と感じられました。週末は極力スケジュールを入れない、通常は3~4日で朝から深夜までかけて行う衣装合わせを、1週間に分散する…そんなふうに、現場の“常識”を少しずつ見直していきました。

 

息子からのコトバ
つづきはないの?あの子たちが心配

最新作では
ありのままの子どもを描きたかった

今回の映画『ふつうの子ども』には、2人の息子の育児を通して湧き上がった実感が詰まっています。国内外のアニメ映画はどれも素晴らしい。でも、どこかファンタジーで、子ども向けに最適化されていて…。親子で一緒に観られて、大人にも刺さる映画ってある?と考えたとき、私自身が観たい映画がないと気づきました。“ありのままの子ども”を描けている日本映画は、実はほとんどない。子どもが、社会問題を背負う添え物のように扱われることが多いと感じます。もちろんそういう現実もあるけれど、私たちが毎日育てている子どもは、もっと自由で、奔放で、短絡的で、そして逞しい。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』という映画があるのですが、子どもたちが全力で遊んで笑って、でもふとした瞬間に社会の影がちらつく。その描写に感動し、私もこんなふうに子どもたちの日常をすくい上げたいと思いました。撮影は昨年の子どもたちの夏休み期間に合わせ、3週間で撮りきりました。また、その間は夫が仕事をセーブし、家事・育児を引き受けてくれました。
「つづきはないの?あの子たちが心配」。これは、長男が『ふつうの子ども』を観たあとにぽつりと漏らしたひと言です。作品の中の子どもたちを“現実にどこかで生きている存在”として感じ、さらにはその子たちの行く末を案じてくれた。その感受性に、心の底から打たれました。夫は関係者試写ではなく、あえて初日に映画館へ足を運んでくれました。恐る恐る感想を聞いてみると、「リアルで、気が気じゃなかった」と(笑)。映画にちりばめた多くのエピソードがわが家の出来事に基づいていると感じ、「これ、見たことあるぞ」と、冷静には観ていられなかったそうです。でも、それは私にとって、最高の褒め言葉。リアリティにこだわってきた私にとって、まさに狙いどおりだったので。仕事仲間にもチラシやチケットを配ってくれているようで、ありがたいかぎりです。

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次男と近所の公園で。この日は、長男は合唱コンクールの練習で残念ながら不在。最近は2人が頼もしくなってきて、出かけると方向音痴な私を心配してくれます(笑)。

 

主演からのコトバ
今まで会った中でいちばん、変な人

選択と葛藤を
日々繰り返している
すべての親たちに届けたい

主演の小学生・嶋田鉄太くんに出会ったとき、オーディションのその瞬間に直感しました。「この子で映画を撮りたい」と。撮影中、彼が言った言葉も忘れられません。「今まで会った中でいちばん変な人」。それがもう、嬉しくて(笑)。「変な人」って、たぶん彼にとっては“今まで会ったことのない大人”という意味。私が彼の記憶に強く残ったことが単純に嬉しかったのです。嶋田鉄太という俳優と出会えたことで、私の映画人生は大きく変わりました。彼の視線や言葉、たたずまいは、まさに生きている子ども。その瞬間にしか生まれない表情や感情の揺らぎをフィルムに収められたのは、彼のおかげです。そしてそれをすくい取らせてくれたプロデューサーをはじめスタッフ、キャストに心から感謝しています。
環境活動家グレタ・トゥーンベリに影響を受けたような強烈な女の子と、その子に恋をする男の子の物語。最初の着想はそこから始まりました。でも、出来上がった映画はそれだけじゃない。この時代に、子育てをしながら働き、選択と葛藤を繰り返しているすべての親たちが、「これ、自分のことかもしれない」と少しでも思えるようなそんな「窓」のような映画になっていたらうれしいです。すでに観た人からは「まともな親がひとりも出てこないので、励まされた」という感想も(笑)。子どもが観ても飽きないような話の展開やテンポ、リアルさにこだわった末の子どもたちのセリフ別録りなど、こだわりは随所に。そしてまた、いつかあのときのプロデューサーがこの映画を観て、「これは呉にしか撮れなかったな」と思ってくれたら、ちょっとだけ誇らしいなと思っています。

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『ふつうの子ども』主演の嶋田鉄太くん。オーディションのセリフ読みでは唯一、自分で解釈したオリジナルのセリフを読んで物語の世界に没入していて、強烈な印象を残しました。

呉さんのHistory

映画監督の呉美保さんと大林宣彦監督
映画監督デビューした頃の呉美保さん
夫と義父母と長男妊娠を祝う呉美保さん
長男出産直後の呉美保さん
次男を出産直後の呉美保さんと長男
映画監督の呉美保さんの最新作『ふつうの子ども』のフライヤー

憧れの大林宣彦監督に直談判し、スクリプターとして映画撮影の現場でのキャリアを積む。

映画監督デビューは2006年『酒井家のしあわせ』。2014年、3作目の長編映画、綾野剛主演『そこのみにて光輝く』が第88回キネマ旬報ベスト・テンで日本映画ベスト・ワンなど多くの賞を受賞。

2014年に結婚。夫と義父母と長男妊娠を祝う。

翌年、長男を出産。初めての育児に当初は戸惑うも「こんなに誰かを愛しいと思えるんだ」という感情が現在の作品作りにも生きている。

2020年次男誕生。妊活と同時期に進めていた映画を諦めたが、この子に出会えたのだから全く後悔はなし。

現在、最新作『ふつうの子ども』が公開中。

呉 美保(お みぽ)さん
1977年、三重県伊賀市生まれ。大阪芸術大学卒業後、大林宣彦監督の事務所「PSC」に入社、スクリプターとして映画作りを学ぶ。2006年『酒井家のしあわせ』で脚本、監督デビュー。2014年『そこのみにて光輝く』で国内外の多くの賞を受賞する。CMディレクターとしても活躍。2014年に結婚し、現在は10歳、5歳の男の子のママ。最新作は『ふつうの子ども』。テアトル新宿ほか全国で公開中。

撮影/吉澤健太 取材・文/嶺村真由子 編集/中台麻理恵
*VERY2025年11月号「家族のコトバ」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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