脱スマホしたいけど活字を追う気力が湧かない、そんな時におすすめなのがミステリー。待ち受ける「謎」を追うことで自然とページをめくる手が進み、気がつけば没頭!そうはいっても読みたい本を探す時間がそもそもない…! そんな人のために、ミステリーを愛する4人の選者が、VERY読者にうってつけな一冊を紹介します。
子育て中こそ、一瞬で非日常に
いざなってくれる最高のエンタメ!
VERY秋のミステリー同好会
❝日本随一のミステリーコンシェルジュ❞
杉江松恋さん
ミステリー好きなら知らない人はいない!数多くの書評や解説を手がける杉江さん。専門家ならではの視点で、読者に刺さりそうな3冊を厳選してもらいました。
日曜の午後はミステリ作家とお茶を
14篇を収めた短篇集です。主人公のシャンクスはミステリー作家で、彼がいろいろな事件に巻き込まれるというのが話の定型ですが、内容がバラエティに富んでいて一つとして同じ始まり方、終わり方をするものがありません。強盗にあったシャンクスが犯人を捕まえるために凝った罠を仕掛ける話、タクシーの運転手と交わした会話から事件の真相を見抜く話、誘拐された競走馬を探しだす話、などなど。毎日一篇ずつ、2週間楽しめますね。
『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』
ロバート・ロプレスティ/
高山真由美訳(創元推理文庫)
ミステリー作家のシャンクスは、売れっ子作家の妻がインタビューを受けるのに付き合ってカフェにいた。暇つぶしに周囲を観察するうち、不思議なことに気づいてしまう。
空をこえて七星のかなた
どうしてこれがミステリーなの、と読み始めたら思うはずです。少しもそれっぽい顔をしていないから。しかも収められている物語はみんなバラバラで、弱小文化部が団結して事件に当たる学園ものがあれば、下宿のお姉さんを助けるために大家の娘ががんばる話もあり、中にはこれはSFじゃないの、と思うものも。それらの話がどう関係しているのかがわかるのは最終話です。実はこうだった、という種明かしにミステリーの醍醐味を感じてください。
『空をこえて七星のかなた』
加納朋子(集英社文庫)
中学受験に成功した七星は石垣島に連れていってもらうことになった。でも同行者はパパだけ。去年まではママもいたのに。乗り気ではない旅先で少女を出迎えたものはある奇跡だった。
彼女たちの牙と舌
知的好奇心が満たされる!
読後感すっきりミステリー
主人公は4人の母親で、彼女たちが一人ひとり主役を務める連作形式の物語です。中学受験によって結びつけられた4人は、実は他のメンバーのことをよく知らない。実は、それぞれに見せている表面の顔と本音はかけ離れていて、それぞれの語りが終わるたびに意外な真実を突き付けられることになります。他人ってやっぱり怖い。そして話の中心には、誰もがはまりかねない罠のような犯罪があります。そこに絡めとられるのは、明日のあなたかも。
『彼女たちの牙と舌』
矢樹 純(幻冬舎)
子の中学受験をきっかけに定期的に集まるようになった、立場の違う4人の母親。だが衣織は、グループから抜けたくて仕方がない。ある日彼女は、メンバーの秘密を知ってしまう。
❝2児のママでミステリー作家❞
芦沢央さん
最新刊『噓と隣人』が第173回直木賞候補に選ばれるなど、注目のミステリー作家・芦沢央さん。子育て中の今だからこそ読みたい本を推薦してもらいました。
熟柿
私は母親になってから、間違って何か取り返しがつかないことをしてしまったら…という不安を抱くようになりました。本作の主人公は轢き逃げ事件を起こして離婚され、子どもにも会えなくなってしまった母親。まさに取り返しがつかないことをして幸せが壊れてしまった「後」の物語です。すべてを失った彼女が、それでも終わらない人生の中で出会う人や出来事、そして光。この本を読んで、間違えることを恐れすぎずにいられるようになりました。
『熟柿』
佐藤正午(KADOKAWA)
激しい雨の夜、眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねた主人公はひき逃げの罪を負い服役中に出産。「息子に会いたい」想いだけで各地を流れ再生を模索する女性の17年。
カラフル
母になった人に贈りたい
お守りになるミステリー
私自身が子ども時代に出会って救われた本。子どもが保育園に通っていた頃は、先生が「今日園であったこと」を報告してくれて、子どもからも話を聞けたけれど、小学生、中学生と大きくなっていく中で、親の知らない世界を作っていっているのを感じています。もちろんそれでいいのですが、本当に辛くなったときに相談してもらえるかなという心配も。でも、我が家の本棚にはこの『カラフル』が並んでいる。それだけで心強さを感じる一冊です。
『カラフル』
森 絵都(文春文庫)
人生に失敗し、死んだ「ぼく」。その魂が、自殺した中学生・真の体に入って二度目の人生にチャレンジする。思春期の少年の葛藤を見事に描いた、不朽の名作。
黒猫を飼い始めた
まとまった時間は取れないから長い話や複雑な話は手に取りにくいけれど、少しでも読書をしてリフレッシュしたい。そんなときには、こちらがおすすめ。本書は26人の著者全員が「黒猫を飼い始めた。」という1行から始めるアンソロジーで、どれも6~8ページくらいの短い話ばかりなので、すき間時間の息抜きにぴったりです。同じ書き出しから生まれる多彩な物語たちは、現実からちょっと離れたいろんな場所へ連れて行ってくれるはず。
『黒猫を飼い始めた』
講談社MRC編集部編(講談社文庫)
全編同じ書き出し「黒猫を飼い始めた。」から広がる、26作家による謎と驚きのショートショート文庫版。お好みの作家を見つけるきっかけにも。
❝ミステリー偏愛VERYライター❞
樋口可奈子さん
母の影響で幼少期からアガサ・クリスティを愛読。今もミステリーを中心に年間100冊以上読む。つい手に取りがちな「強い女性」が登場する3冊をセレクト。
ほんとうの名前は教えない
他人になりすますスリルが描かれる一方、恋人を欺いて接近した罪悪感、そして彼への恋心にしんみり…と思いきや、そこから殺人事件が起こり、「なぜ彼女は裏の世界に足を踏み入れたのか」と過去にまで遡っていく。一見複雑ですが「わたし」という一人称で全編通して語られるので混乱なく、最後まで怒濤の一気読み。主人公がとにかくタフで好感度大! 読み終えた後の満足感はまるで映画を一本見終えたかのよう。今すぐNetflixで映像化してほしい一冊です。
『ほんとうの名前は教えない』
アシュリィ・エルストン/法村里絵訳(創元推理文庫)
偽名で他人になりすまし、裏稼業を続けてきた「わたし」。ある日、「わたし」の本名を名乗る、瓜二つの女が目の前に現れる。騙されているのは誰? 痛快なラストに注目。
火車
初版は1992年。かなり古い作品ながら、これまで10回以上読み返しているオールタイム・ベスト。消費者金融やカード破産など、扱われている題材がやや古いのは否めませんが、お金に対する執着心や考えの甘さ、他者に対する見栄など、人の愚かさはいつの世も変わらないものだと実感。なかなか姿を見せない彰子が放つ存在感が強烈で、「早く彰子に会いたい!」一心で読み進められます。ラスト数ページの緊迫感を、ぜひその目で確かめてください。
『火車』
宮部みゆき(新潮文庫)
親族の依頼で、失踪した女性・彰子を探すことになった休職中の刑事。やがて彼は、彰子の壮絶な過去を知る。多重債務をテーマにした社会派ミステリーの傑作。
ブラック・ショーマン
タフで繊細で思慮深い、魅力的な
女主人公を追いかけたいミステリー
映画化で話題の〈ブラック・ショーマン〉ですが、シリーズ2作のうち、特に推したいのが続編の「覚醒する女たち」。大小さまざまな事件を描いた連作短編集で、前作同様、ミステリーとしての面白みもさることながら、女性の力強さが描かれている点にも注目したいところ。なぜ「ワケアリ」な赤ちゃんを産むことにしたのか。孤独な女性とお金持ちの女性が入れ替わる理由とは? タイトル通り、東野作品の持ち味である「肝の据わった女たち」の生き様がたっぷりと堪能できます。
『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』
『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』
東野圭吾(ともに光文社)
マジック、メンタリングを駆使し、「手段を選ばず、華麗に謎を解いていく」ちょっとダークな探偵・武史が活躍する人気シリーズ。姪の真世との名コンビも楽しい。

映画『ブラック・ショーマン』
2025年9月12日(金)
全国東宝系にて公開
❝VERYモデル一(いち)の読書家❞
青木裕子さん
ジャンル問わずの読書家、書店にも足繋く通う。VERY web連載『ふむふむ、本棚』でも多くのおすすめ本を紹介中。母目線も交えつつ、ハマッたミステリーを教えてくれました。
未必のマクベス
後味の悪さは嫌、でもワクワクは
譲れないママに贈るミステリー
分厚い本は手に取るのを躊躇してしまいがちなのですが、著者22年ぶりの長編という背景に、あるいは「マクベス」というタイトルに、書店でどうにも惹きつけられてしまった一冊です。読み始めたら、めくるめくドラマのような展開に、目が離せなくなりました。没入感がたまらなく、本から顔を上げるたび「私、今どこにいるんだっけ?」と感じてしまったくらい。人生の酸いも甘いもそれなりに経験してきた大人だからこそ、楽しめる作品だと思います。
『未必のマクベス』
早瀬 耕(ハヤカワ文庫)
出張帰りのマカオにて、娼婦から不思議な予言を受けた主人公・中井。やがて彼は香港の子会社の社長に就任し…犯罪小説でもあり恋愛小説でもある、味わい深い一冊。
中央線小説傑作選
オムニバスは、子育て中の読書の味方だと思っています。中央線沿線を舞台にした作品を集めたこの本の中では、ミステリーはアクセント使いといった感じ。太宰治の人間の愚かさを突き付ける皮肉めいた展開も、松本清張の社会のおぞましさを感じさせる緻密な描写も、オムニバスの一遍。だから重い気持ちになりすぎず、さらっと楽しめます。それでいてしっかり名作ミステリーを読んだという満足感が得られる、お得感のある一冊だと思います。
『中央線小説傑作選』
太宰治、松本清張ほか(中公文庫)
中央線沿線を舞台に、内田百閒、太宰、松本清張ら多彩な作家による私小説からミステリまで11編を収録。一編、一編、濃厚な映画を一本見終えたような充実感。
放課後ミステリクラブ
読書が苦手な我が家の次男と一緒に選んだ一冊。帯に「親子で楽しめる本格ミステリ」とあったので、次男が寝ている間に私も読み進めてみました。子どもが読みやすい設定や言葉遣いになっているものの、大人も面白さを感じられる作品です。考察し合う楽しさもミステリーの醍醐味。「どちらが犯人をあてられるか」なんて言いあいながら、次男もあっという間に読破できました。親子で楽しむコツは、親が先にネタバレしないことです(笑)。
『放課後ミステリクラブ』
知念実希人(ライツ社)
ベストセラー作家による子ども向けミステリー。学校で起こる不思議な事件に挑む小学生探偵たちの活躍は本格的。殺人事件は起こらず、トリック満載で親子で楽しめる。
撮影/坂田幸一 取材・文/樋口可奈子 編集/中台麻理恵
*VERY2025年10月号「秋のミステリー同好会」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のもので、変更になっている場合や商品は販売終了している場合がございます。











