
2児の母であり人気作家の芦沢央さんが、子育て中の心に響く3冊をセレクト。罪を背負った母の再生や、親子の絆を見つめ直す物語など、ページをめくるごとに心がほどけていく一冊に出会えるはず。
子育て中こそ、一瞬で非日常に
いざなってくれる最高のエンタメ!
VERY秋のミステリー同好会
❝2児のママでミステリー作家❞
芦沢央さん
最新刊『噓と隣人』が第173回直木賞候補に選ばれるなど、注目のミステリー作家・芦沢央さん。子育て中の今だからこそ読みたい本を推薦してもらいました。
熟柿

私は母親になってから、間違って何か取り返しがつかないことをしてしまったら…という不安を抱くようになりました。本作の主人公は轢き逃げ事件を起こして離婚され、子どもにも会えなくなってしまった母親。まさに取り返しがつかないことをして幸せが壊れてしまった「後」の物語です。すべてを失った彼女が、それでも終わらない人生の中で出会う人や出来事、そして光。この本を読んで、間違えることを恐れすぎずにいられるようになりました。
『熟柿』
佐藤正午(KADOKAWA)
激しい雨の夜、眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねた主人公はひき逃げの罪を負い服役中に出産。「息子に会いたい」想いだけで各地を流れ再生を模索する女性の17年。
カラフル

母になった人に贈りたい
お守りになるミステリー
私自身が子ども時代に出会って救われた本。子どもが保育園に通っていた頃は、先生が「今日園であったこと」を報告してくれて、子どもからも話を聞けたけれど、小学生、中学生と大きくなっていく中で、親の知らない世界を作っていっているのを感じています。もちろんそれでいいのですが、本当に辛くなったときに相談してもらえるかなという心配も。でも、我が家の本棚にはこの『カラフル』が並んでいる。それだけで心強さを感じる一冊です。
『カラフル』
森 絵都(文春文庫)
人生に失敗し、死んだ「ぼく」。その魂が、自殺した中学生・真の体に入って二度目の人生にチャレンジする。思春期の少年の葛藤を見事に描いた、不朽の名作。
黒猫を飼い始めた

まとまった時間は取れないから長い話や複雑な話は手に取りにくいけれど、少しでも読書をしてリフレッシュしたい。そんなときには、こちらがおすすめ。本書は26人の著者全員が「黒猫を飼い始めた。」という1行から始めるアンソロジーで、どれも6~8ページくらいの短い話ばかりなので、すき間時間の息抜きにぴったりです。同じ書き出しから生まれる多彩な物語たちは、現実からちょっと離れたいろんな場所へ連れて行ってくれるはず。
『黒猫を飼い始めた』
講談社MRC編集部編(講談社文庫)
全編同じ書き出し「黒猫を飼い始めた。」から広がる、26作家による謎と驚きのショートショート文庫版。お好みの作家を見つけるきっかけにも。
撮影/坂田幸一 取材・文/樋口可奈子 編集/中台麻理恵
*VERY2025年10月号「秋のミステリー同好会」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のもので、変更になっている場合や商品は販売終了している場合がございます。