“メモ”というと、いわゆる「覚え書き」「ToDoList」的なものをイメージしてしまいますが、ママにもファンが多い前田裕二さんの著書で披露された『メモの魔力』はそれにとどまりません。日常をアイデアに変え、思考を深め、自分を知り、夢をかなえ、それはあなたの一生を変える、生き方そのものなのです。おうち時間の長い今こそ、始めどきかも!
メモは自分と向き合うための
スイッチ
――前田さんは「メモで人生が変わる、夢が叶う」とおっしゃってますが、家事や育児や仕事で忙しい生活を送る私たちにとって『メモすること』にはどんないいことがあるのでしょうか。そして、どんなことをメモすればいいのでしょうか?
「まず、メモをすることで、“自分と向き合う”ことができるようになります。 自分のことがわかると、やりたいことや夢が驚くほど叶いやすくなる。つまり、人生が変わります。
ママってきっと、毎日色々なタスクに忙殺されて、自分と向き合う時間がそんなに取れないですよね。でも、どうか、忙しい毎日の中で、1日3分でもメモするためのノートを開いてください。それが自分と向き合うためのスイッチになります。 あの時こう思った、という感情の動きや、ちょっとした気づきをメモするだけで、半強制的に自分と向き合うことができます」
――私たちは起業したりするわけではないのですが。
「本質的には“問題解決”に向かい合うわけですから、起業も主婦業も大きく変わりません。主婦業においても、メモすることはたくさんあります。
たとえば、先月¥10、000だった電気代が今月は¥12、000だったとして、ただ『高くなった』と思うだけではなく、その『事実(=ファクト)』をメモしてみる。そこから、『電気代が上がった理由は、寒くてずっと床暖房をつけていた』と気づく。その『気づき』を『床暖房ではない別の手段を試してみよう』と行動に『転用』してみる。電気代の安い、足元を温めるカーペットを買えば、初期費用こそかかるけれど、長い目でみれば、暖房の設定温度を下げても体感温度が上がるので、電気代が下がるかもしれない」という転用の仮説を実際に行動に移す。
子育ても同様です。こんな時に子どものモチベーションが上がっていた、と感じたならその『事実』をメモしておく。ただ『すご〜い』となんとなく褒めるのではなく、〝丁寧かつ具体的に〞褒めたら伸びるんだなと『気づき』、実際に『転用』して『◯◯ちゃんのこういうところがよかった』と具体的に褒める。
この『気づき』と『行動(転用)』が『メモの魔力』のポイントです。行動に移さない限り、人生は変わっていきません」
――ふだんのママ友との会話もメモして、それが意味あるものになるでしょうか?
「もちろんです。ママ友とだけでなく、日常の生活の中で、嬉しかった、楽しかった、悔しかった、悲しかったなど、ちょっとでも心が動いたことはいったんメモしておきます。メモには、メモした瞬間そのことを忘れることができる、という効用もあります。たとえば、子どもが言うことを聞かず泣いてイライラした、と書けば、その瞬間その負の感情を忘れることができます。その時はメモを閉じれば、目の前の楽しいことに集中できる。考えるのはあとでいい。
僕も、たとえば会食前はそうしています。嫌なことがあったら全部書き出しておいて、毒素を抜いた状態の『楽しい前田裕二』で向かいます(笑)。書いたままそのまま忘れてしまうこともあるし、なんであんなにイライラしたんだろう、と嫌な気持ちが残った時は、後でそのことについて気づきと転用を考えてみます」
ぼんやりとした思いを言語化
――アンガーマネジメントの他にも効用はありますか?
「他に大きな効用があるとすると、“言葉にする力を養える”ということです。つまり、頭の中にあるぼんやりした思いをきちんと『言語化』できるようになります。子どもに伝えるべきことを正しい言葉で伝えられますし、そのことによって、子どもの言語能力を育てることもできます。僕自身、約20年メモを取り続けてきて、脳が活性化されたりモチベーションが上がるのを実感しました。それはやはり、言葉の力が大きいと思います。
メモに書き込む言葉の力によって、自己肯定感が自然と上がっていくんです。メモに膨大な言葉を書き連ねてきた人生ですが、それによって、その言葉を仕事に活かすことができたり、言葉にすることによって夢が叶ったり。その魔力を知っているので、今でも僕のメモは毎日、次にやりたいことや未来への希望で溢れて ます。
ただ、メモをそこまで大ごとだと思わないで欲しい。その意味で、まずは薄いメモ帳を使うのがオススメで す。1冊完成すると自分でもメモできたと達成感が自信につながるからです」
――自分がやりたいこと、夢がわからない、というママも多いのですが、まず何から始めたらいいのでしょうか?
「心からやりたいことを考えてみること、でしょうか。就活では『自己分析』として自分と向き合うことを強要されるので、必要に迫られて、自分とは何者か、心が何を求めているのか、を考えます。もしかすると、そのタイミングを逃して、結婚・育児のライフステージに入ってしまっている方もいるかもしれません。自分と向き合う時間は、意図的に捻出しないと絶対に取れません。
自己分析や内省って何だか意識が高い響きだし、『瞑想でもするの?』と思われがちですが、自分のやりたいことを知るためには、自分に対して、適切な質問を投げかけることが必要です。本の最後に『自分を知るための【自己分析1000問】』を載せているのですが、(もちろん1000問全部やる必要はありませんが)、たとえば『夢についての100問』で幼少期、小学校、中学校の過去を振り返って、それぞれの時期に好きだったこと、将来の夢は、理想の職業は何であったかなど思い出してメモに書き出してみてください。僕も幼少期から描いていた『世界で活躍したい』という夢が今につながっています。幼い頃の憧憬、願いは今も深層心理にあると思うので、まずは自分と向き合って一つずつ思い出してみることが大切です」
――幼少期からの夢を思い出したら、次はどうすれば?
「たとえば、『裁縫して人形を作るのが好きだった』『アクセサリーを作るのが楽しかった』と思い出したら、その楽しい、ワクワクをヒントに、今の生活に取り入れていけないかを考えます。 僕は、自己実現について考える際によく、『will、can、must』という考え方を使っていますが、それを 当てはめるとわかりやすいかもしれません。
まず、willは、「自分のやりたいこと」。その中にも、『趣味will』と『プロwill』があります。たとえば、手作りでの人形作りを仕事にしようと思うと難易度が高いですが、「趣味でいいんだ」という割り切りができれば、充分幸せですよね。次の段階はそれを仕事にする、そこから収入を得るにはどうしたらいいかを考えていく。
mustというのは、純粋に、今現在、身を置いている環境において、自分が求められていること、やらねばならないことですが、強いwillを持ち、それを突き詰めていると、好きが高じて自然とcan(すなわち、できること)が伸びていきます。
現代はよく、「個の時代」と言われていますが、SNS、クラウドファンディング、我々が運営しているSHOWROOMもそうですが、こういったツールを活用してファンをつければ、好きなことを仕事にできます。ITで個を『エンパワー』していくこと、個に力を与えたいというのがIT業界、僕らのテーマです。自分の好きなことを見つけて、その周りの共感の総量が増えれば、仕事も増えていく。気づいたら好きなことをして日々を 過ごし、収入を得られるようになる。
ただ、必ずしも好きなことを仕事にしなければいけない、というわけではありません。たとえお金にならなくても、アクセサリーを作って友達に配って喜んでもらえたら幸せ、でもいいんです。これが趣味willの世界。willをこの段階でとどめる幸せというのも、あると思います」
自分を俯瞰して 見つめる癖
――配ってるだけだと、夫や周りからそんなの何の意味があるの?と言われる可能性も。
「たとえお金を生み出さなくても、自分が何か好きなことに没頭できていることのラグジュアリーさって、他の何ものにも代えられません。これからはエキサイトメントや楽しい気持ちの感情価値のほうが、お金の経済価値よりも相対的に高くなっていきます。だからこそ高まっている、ワクワクしている、そんな自分の感情や意識を見過ごさずに、大切にしてあげて欲しい」
――ママにもファンが多い前田さんからママにメッセージが欲しいです!
「一番のメッセージは、“何よりも自分を大事にして欲しい”ということです。自分のコップが満たされて初めて家族や周りの友人など他者のコップを満たすことができます。そして、自分の人生の手綱をしっかり握るためにも、メモで自分を俯瞰して見つめる癖をつけて欲しい。メモというと意識が高い系に見えて今さら恥ずかしいと感じる人もいるかもしれませんが、メモは、自分をよりよく知って、人生を豊かにしていく、ものすごい力を秘めた万能ツールです。他者の論理で一日や人生を組み立てるのではなく、自分はこうありたいから一日や人生をこう過ごすんだ、と組み立てる。全ては自分、もっというと、自分の価値観(好き・嫌い)からスタートする毎日で良いと思う。 誰より自分を愛でて、自分優先であることが、結果周りを幸せにすることにもつながるんだと、最近強く思います。この記事を読んだ皆さんの毎日がもっともっと豊かで幸せになることを、心から願っています」
◉前田裕二さん
1987年東京生まれ。SHOWROOM株式会社代表取締役社長。2010年早稲田大学卒業後、外資系投資銀行に入行。NYで数千億から数兆円規模の資金を運用するファンドに対してアドバイザリーを行う。13年、DeNAに入社し、仮想ライブ配信サービス『SHOWROOM』を立ち上げ、今に至る。その温和な表情と語り口で主婦ファンも多い。
撮影/吉澤健太 取材・文/立花あゆ 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2020年4月号「昨年No.1ベストセラー『メモの魔力』の著者・前田裕二さんに訊きました 私たち、何をメモすればいいですか?」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。