※このコラムはVERY2025年5月号(2025年4月7日発売)に掲載されたものです。
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「無能の武器化」(Weaponized incompetence)という言葉、ご存知ですか?近年海外のSNSで話題になることがよくあるのですが、これは主に家事をやりたくない男性が、あえてできない、無能なことを強調してやらなくて済むように仕向けること。食洗機用の洗剤を入れるべきなのに食器手洗い用の洗剤を入れるとか、洗濯物を全然違うところに戻すとか。「僕わからないから君がやったほうが早いね、いいね」と仕向けられてしまう。日本でもあるあるだと思うのですが、同じく海外でもあるあるなようで、まさに今SNSでバズっています。パートナーや母親など、ケアを率先している人が周りにいると、無能なほうがむしろいいやとなってしまいやすいんでしょうね。ここである男の子のママの話がとても話題になっていて、皿洗いも十分できる年齢のある男の子は、皿洗いをさせると毎回割っていたんだそうです。ママはそれを見て無能の武器化をし始めた、と思ったんだそう。そこで「あなたがちゃんと皿を扱えるようになるまで紙皿ね」と、その子に紙皿で食べさせた。そうしたらもう二度と割らなくなったんですって。
ライフスキルを教えるのは男女関係なく大切ですし、親の役目ですよね。特に男の子に対しては「不器用だからしょうがないね」「料理の後片付けができなくてもこんなもんだよね」と許してしまいやすい。一方で、女の子には「しっかり教え込まないと」という気持ちが働きやすいのではないでしょうか。大人でも、「男の料理」とか言って料理しっぱなしで後片付けしないパターンがありますが、シェフは圧倒的に男性が多いですよね。それなのに家では「わからないから」となるのが、不思議。そもそも家事の得意・不得意に性別は全く関係がないと思うのですが、そこに性別をくっつけたのが家父長制だし、女の子がピンクで男の子がブルーというのも、実は昔は逆だった説もあります。
もし本気でどの洗剤を入れるか一生覚えられないとか、指示されないと何もできないのだとしたら、社会人として仕事をちゃんとできているのか心配になるレベルかも。でも実際は、男性もできるはずなんです。よく「夫は妻がちゃんと褒めて育てるべし」などと言いますが、私はそんな責任は全くないと思っています。そもそも男性を馬鹿にしている気がしませんか?表面上は男尊女卑なのに、男性を無能だと思っている風潮が日本の特にメディアにはすごくあるな、と感じます。それに対して男性が怒っていないところがまた不思議で、でもそれは日本の社会では男性が無能である・無能であるフリをすることで男性が得をしている部分が大きいからなのかもしれません。
「無能の武器化」という言葉は強めですが、言葉を浸透させることで意識が変わる部分もあると思うので、ぜひ家族や友人と話してみてほしいです。数年前に「性的同意」と言っていたときは、こんな言葉が日本で到底浸透すると思えなかったけど、すっかり市民権を得てきましたよね。ぜひ言葉から私たちの違和感を広めていきたいな、と思います。
◉SHELLY|シェリー
1984年生まれ、神奈川県出身。14歳でモデルとしてデビュー以後、タレント、MCとして幅広く活躍。9歳と7歳と2歳の娘の母。
ごはんやさんに行くと最近は座って食べていられない2歳とパートナーと代わりばんこで食べたり、遊んだり。ドア開けてー!とふざけています(笑)。
撮影:須藤敬一 取材・文:有馬美穂 編集:中台麻理恵
*VERY2025年5月号「シェリーの「これってママギャップ?」」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のもので、変更になっている場合がございます。