“結婚した相手は人生最愛の人ですか?”
大ヒット小説『マチネの終わりに』の帯に書かれ、世の大人をドキッとさせたこのフレーズ。
想いは通じながらも、すれ違う大人の恋を描いた絶賛上映中の映画『マチネの終わりに』。主人公を演じた福山雅治さんと石田ゆり子さんに伺いました。おふたりにとっての“最愛”とは……?
大人の恋は、どうして切ない?
石田 主人公の蒔野(福山さん)と洋子 (石田さん)に関して言えば、あのとき蒔野が電話をしていたら、すれ違うこともなかったはずなんです。蒔野さん、どうして電話くれなかったんですか !?(笑)
福山 ごめんなさい(笑)。でも、それを言ったら……蒔野はきっと、洋子のことを慮(おもんばか)りすぎてしまったんでしょうね。ふたりは特にそうなんですけど、大人は今までのいろんな経験から相手を慮って、気を遣いすぎてしまう。相手だけでなく、 自分も傷つけまいと慎重に行動をする。その優しさが、切なくなるんだと思います。
石田 私自身は「好きだ、好きだ」とグ イグイ来られるのは苦手なので、どちらかというと慮ってほしいタイプではあり ます。ちょっと離れたところから、静かに見守ってくれるような人がいい。静かに、というのがポイントです。
福山 「ゆり子のこと、俺はずっと見てるからさ」とか、いちいち口に出してアピールしてくるような男は好きじゃないってことですね(笑)。
石田 鈍くて気づかないと困るから、 時々は言ってほしいですけど。“人が感じよくいる”って、どういうことかなって思うことがあって、例えば何かあったとき「大丈夫ですか?」と急に言われるより、少し引いて見守ってくれる人のほうが、私は胸にくるんです。
福山 わかりますね、その感じ。年齢を重ねると、自分の気が回らないところ、手の届かないところに寄り添ってくれたり、気づいてくれることに深い愛情を感じたりする。「ちゃんと見ていてくれるんだな」 って。蒔野と洋子がたった三度会っただけで強く惹かれ合ったのは、そのような要素も大きかったのではないかと思います。
石田 若い頃とは、確実に愛情の感じ方も好意の抱き方も違いますよね。ときめきかぁ。今好きな人がいたとしても四六時中ときめいていたら、私は疲れて死んじゃいそうです(笑)。
福山 過去の恋愛から、“ときめきというレッドゾーン”にギアを入れ続けると、エンジンが壊れることを学んでますから。アイドリング状態にしたり、いかにエンジンに負荷をかけすぎずにいられるか。相手を慮りながら、あれこれ考えるから疲れるし、余計に苦しくなるんでしょうね。
ときめき続けるとエンジンが壊れることを
経験から知っている。
相手を、自分を慮ってしまうからこそ
大人の恋は切ない。
福山雅治さん
叶わなかった恋の相手に
もし、再び出会ったら……?
石田 男性と女性では、恋愛との向き合い方も大きく変わると思うんです。男性はどうも過去を美化していつまでも覚えている……ような気がしてしまうのですが、女性は“今”しかない。過去のことはどうでもよくなってしまうというか、それはやはり女性としての本能のような気もします。
福山 男のほうが、ナルシスティックなのかも。“俺が足りなかったから”とか“ごめんねすら言えなかった俺、ごめん”みたいな(笑)。トム・ウェイツの「サンディエゴ・セレナーデ」って曲があるんですけど、地元に恋人を置いて都会に出るという設定に、長崎から東京に出てきた自分を投影させて、その曲を聴きながら夜ひとりでちびちび酒を飲み、泣いたりしてたわけですよ。
石田 やはり、男性は引きずりがち……。
福山 引きずっているというか、振り返って自分の小ささを反省しているんです、たぶん(笑)。若い頃ってお互いの違うところを分かり合えずに終わってしまった恋愛も多くあった気がするんです。受け入れたり、流したりできなかったのは僕自身が至らなかったからだ……と。今なら、鼻毛が出ていたとしても、鼻毛ごと抱きしめてあげるのになって(笑)。
石田 でも、きっと男性のほうがロマンチストで優しいし、美しい思い出にできるのも羨ましくもあります。私は動物と暮らしていて「いつか死んでしまう」と考えると、辛くなってしまう時期があったんです。だから“必ず来ることを案じても仕方がない”と、考え方を変えたんですね。今しかないって。それは恋愛にも通じることじゃないかなと思うんです。私は、すれ違ったまま終わった恋だとしても、やり直したくはないです。一度終わったのなら、同じ状況に戻るよりも、ふたりの経験を生かした別の絆が欲しいです。
福山 男的には会えていない間に彼女がどう過ごしていたかは知りたいなと思ってしまうかもしれませんね。でも、そうやってスパッと断ち切ってくれる女性のほうが、男性もきっと好きなはずですよ。ずっと引きずっていると思うと、お互いに心配して気になっちゃうじゃないですか。
終わってしまった恋愛は
やり直すよりも
その経験を生かして
新しい絆を作りたい。
石田ゆり子さん
おふたりにとって「最愛」とは?
福山 読者さんのアンケート(※VERY読者100名アンケート:結婚したのは人生最愛の人ですか?)で“最愛より、最高”っていう回答がありました。素敵な言葉ですね。最愛って、ちょっと重めじゃないですか。自分で「最愛」という楽曲を作っておきながら言うのもなんですが(笑)。
石田 そうかも。未経験の私が言うのもなんですけど、結婚生活ってとても現実だと思うんです。そのとき最愛の人と結婚しても、家族になったら同じ方向を向いていないといけない。ずっと同じ気持ちで恋をしているというのも、きっと大変ですよね。愛情のうえに成り立っている“チーム”みたいなほうが上手くいくんでしょうか。
福山 「このチーム最愛なんだよね」より、「このチーム最高なんだよね」のほうが、長く続く気はしますね。
石田 好きという言葉よりも、冷静に褒めてくれたり、叱ってくれたり。お互いを育み合えるようなチームでいられたら素敵ですよね。でも、毎日叱られるのはイヤですよ(笑)。
福山 最愛という言葉は、歌やドラマ、過去だから美しく響くのかもしれない。夫婦として、家族として一緒に生きていくうえでは、「最高」のほうがしっくりくるかもしれませんね。
家族は「最高のチーム」。ときには意見が対立し、団体で挑む難しさにぶつかり。それでも力を合わせて何かを達成したときの喜びは、恋することの何倍も、心をときめかせてくれるはず。