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性教育ノベル第9話「私は信じてる。信じる者は救われる!」Byキキ|Girl Talk with LiLy

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illust. Shogo Sekine

●登場人物●

キキ:雨川キキ。早くオトナの女になりたいと一心に願う。親友はアミ。大人びたスズに密かに憧れを持ち、第7話でついに初潮が訪れた。

スズ:キキのクラスメイト、鈴木さん。両親は離婚寸前。大人になりたくない気持ちと、すでに他の子より早く初潮を迎えたことのジレンマに悩む。

アミ:竹永アミ。キキの親友で、キキと同じく早くオトナになりたい。大好きなキキと一緒にオトナになりたい気持ちから、キキが憧れるスズについ嫉妬してしまう。

リンゴ:保健室の先生。椎名林檎と同じ場所にホクロがあることからキキが命名。3人の少女のよき相談相手。

マミさん:キキの母。ミュージシャン。

「私は信じてる。
信じる者は救われる!」

by キキ

 

胸がずっとドキドキしっぱなし。マミさんがリビングのテーブルに置いておいてくれた500円玉を握りしめて、私は駆け足。アパートを飛び出して、向かっているのはお花屋さん。

ナプキンをつけたパンツの感じに、まだまだぜんぜん慣れなくて。だけどそれすらなんだか嬉しくて。お腹の奥の方が少しだけ痛いような気もしていて。

あ、でも、生理痛があるかもしれないって思い込みが私に、お腹の奥の方を意識させているだけだから、気のせいかもしれなくて。

あ、大丈夫かな? スカートの後ろが汚れていたりはしないよね? たまたまだけど、今日のスカートはお気に入りの紺と赤のチェック柄。もし少し汚れたとしても、目立ちにくいから平気か! っていっても、まだそんなにいっぱい血が出ているわけでもないんだよね。さっきトイレに行った時も、ちょっとだけ、小さなシミがナプキンの上に付いていた程度だった。

あ、このまま血が止まっちゃうってことはないよね? それはイヤだな。って、生理かもって思っていたけど本当はまだで、これは全部私の勘違いってことはないよね? いや、まさかね。

……ッ! わッ! そんなことを考えていた矢先のことで、ビックリした。慌てて足をピタリと閉じて立ち止まっちゃった。

カラダの奥から、トロンとしたものがナプキンの上に流れ出るのを感じたの。たぶん、というか絶対に、生理の血だと思う。

 

こんな体感は初めてで、胸が高鳴る。

口元が自然と、ニヤけてきちゃう……。

 

まるで、自分のカラダに恋してるみたい。だって、なんか今の私って、トランスフォーマーみたい! 私が丸ごと、オトナの女へと変身してるみたいで、超クール。

……やばい。今、私、めっちゃ嬉しい!!

スズは、初潮がきた日はショックでビックリしてトイレで泣いちゃったって言っていた。その気持ちも、わかるというか想像ができる。流血するって、事件だもの! 痛みはなくても、自分の血がパンツについているのはショッキングな画すぎるもの!

それでも私が初潮に対してトキメいているのは、この先には胸がドキドキする素敵なことがたくさん待っているって心の底から信じているから。だからね、正直、自分のカラダが無事にオトナの女の第一歩を踏み出してくれたことが、もう嬉しくってたまらない!

「幸せなオンナ道」を歩むためのとびっきりの秘訣が3つあるって、マミさんが言っていた。もっと厳密に言えば「オンナの三大流血事件」とマミさんはこれを名付けている。人生のステージがガラリと漫画みたいに大変化する重要なタイミングで、女は「流血」するらしいのだ。

その人生最初の第一タイミングが、初潮。

大切なのは、人生で一番はじめに起きるこの「流血事件」を自分の心100パーセントでお祝いすることなんだって。

不安で仕方がなくっても、本当はイヤで涙が出ちゃっても、とりあえず心の中で言葉にしてみるだけでも、十分に効果があるんだって。

 

「おめでとう、わたし」って、自分に言ってあげること。

もしかしたらこれは「おまじない」みたいなものかもしれない。

 

でもね、本当に、その瞬間をきちんと人生の中に存在させることが、ここから先に続いてゆくオンナ人生のハッピー度合いを決めるんだって。

マミさんは、しっかりと私の目を見て、そう言い切ったからね。だから私は信じてる。今日、これから私が自分のためにお花を買うことも、これからの私を幸せへと導くための一つの儀式みたいなものだって。

あ、でもこれはマミさんだけではなくて、昔から女の子が初潮を迎えたらお赤飯を炊いてお祝いするのが日本の文化みたいだし。これはマミさん以上の信憑性があるよね? とにかく、信じる者は救われる!

お花屋さんに入ってすぐに、色とりどりの花の中から真っ赤なバラに目がいった。美しくって、憧れる。オトナの女の口紅の色みたい。棘があるところも、美しいものを守るための武器って感じでカッコいい。それに、どこか生理の血の色にも似ているし。やっぱり女の象徴って感じがする。赤いバラに決めようと思ったところで、隣のピンク色の花に目移りした。

何度も見たことがあるし、絵に描いたこともある。——というよりも子供が絵に描くお花はコレという有名な見た目だけれど、名前がわからなかった。

「すみません。このお花は、なんていう種類ですか?」

私のすぐ隣で、エプロンをした格好で中腰になって、花が入ったバケツの水を入れ替えているスタッフのおばさんに聞いてみた。

「あぁ、これ? ガーベラですよ。可愛いでしょう」

「はい。このピンクのガーベラは、おいくらですか?」

よかった、500円で足りる! とすぐに思った。

 

「二輪ください」

 

あの時どうして、憧れの真っ赤なバラからピンクのガーベラに目移りしたのか、自分でもよくわからない。理由なんてないのに、すぐに決まった。もしかしたら、理由がわからない時の方が、迷うこともなく決められるものなのかも。そういう瞬間って、ちょっとした運命みたいなものだから。

花屋さんからそのまま走って向かった先は、スズの家。場所は、マンション名を聞いただけで誰だってすぐにわかる。この街で唯一ってくらいの高級マンション。初めて会ったスズのお母さんは、メガネをかけた真面目そうな人だった。スズは塾に行っていて留守だったから、赤いリボンをかけたピンクのガーベラは、スズのお母さんに託してきた。お誕生日でもないのにどうして? ってハテナマークが顔いっぱいに書いてあった気がしたけれど、理由は言わないでおいた。

「遅くなったけれど、スズも初潮おめでとうね」

心の中で言ったら、鼻の奥がツンッてなるくらいに感動しちゃった。

オトナの女の象徴が真っ赤なバラだとしたら、その隣でピンク色に咲いていた可愛い花は、なんだか私たちに似ている気がした。

「焦ることはなんにもないの。ゆっくりゆっくり、オトナになっていけばいい。未来も素敵だけれど、今しかない少女時代を隅々まで感じて、楽しむことよ」

初潮がこない、まだこない、と拗ねていた私にマミさんがいつも言っていたセリフを思い出しながら、自分のためにリボンもかけた一輪のガーベラを手に、やっぱり私はスキップしそうになりながら、だけど十分にルンルンとした足取りで家まで帰ったんだ。

玄関のドアを開けたら、全身が甘い百合の香りに包まれた。シューラックの上には、マミさんお気に入りのゴールドの花瓶。入っていたのは、たくさんの真っ白な百合の花。さっき家を出た時にはなかったから、マミさんが私のお祝いに買ってきてくれたものだとすぐにわかった! 靴を振り落として、リビングに通じるドアを一気に押し開ける。

 

「おめでとう、キキ。女って最高よね❤️」

 

笑顔のマミさんが広げた腕の中に、私は思いっきりダイブする。

<つづく>

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◉LiLy
作家。1981年生まれ。ニューヨーク、フロリダでの海外生活を経て、上智大学卒。25歳でデビュー以降、赤裸々な本音が女性から圧倒的な支持を得て著作多数。作詞やドラマ脚本も手がける。最新刊は『目を隠して、オトナのはなし』(宝島社)。8歳の長男、6歳の長女のママ。
Instagram: @lilylilylilycom

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