今月、政府が子どもと接する職場で勤務するときに性犯罪歴がないことの証明を求める仕組み「日本版DBS」の導入を検討しているという報道がありました。ネット上ではその内容のさらなる改善に向けて署名活動が始まっており、多くの人から高い関心が寄せられています。
そもそもDBSとは?
DBSとは、イギリスで導入されている「Disclosure and Barring Service」(前歴開示・前歴者就業制限機構) の略称。子どもに関わるすべての職種やボランティアで働く人々に「犯罪歴証明」を就業先に提出させる仕組みです。
日本ではこの制度を参考に、性犯罪歴がある人物が子どもに関わる仕事に就業することを未然に防ぐ目的で「日本版DBS」の導入が検討されています。実現すれば子どもの心と体を守るために効果的な政策であり、たびたびニュースになる子どもへの性犯罪の防止につながると考えられています。
なぜ署名活動が始まっている?
一刻も早く導入されてほしい「日本版DBS」ですが、現段階の検討内容にはまだまだ課題も。イギリスではDBSの対象を「ボランティアを含む、子どもに関わるすべての職種」としており、学校教師にとどまらず塾講師やスポーツインストラクターなど、幅広い職種としています。一方、一部報道によると、日本で現在検討されている案ではDBSの対象は学校・保育園・幼稚園の職員のみになる見通しと報じられており、塾講師やスポーツインストラクターなどは含まれていません。しかし、最近でも塾講師が生徒を盗撮、さらにはその画像を生徒の住所とともに拡散していたニュースがあったように、子どもに対する性犯罪が起きるのは学校だけではないのです。
そこで、認定NPO法人フローレンスが発起人となり「『日本版DBS』の対象を、無償ボランティアも含めた『子どもに関わる仕事すべて』とする」ことを国に求め、署名活動をスタート。同団体は、病児保育のほか、待機児童問題、虐待問題など、子どもに関する現代社会のあらゆる課題に取り組んでおり、「日本版DBS」にもさらなる改善を求めています。
会長の駒崎弘樹さんは「今の日本では、例えば小学校で子どもに対して性犯罪を犯した教師が保育士や学童職員、塾講師となって現場に戻り、再び犯罪を起こすことが可能です。残念ながら、実際に犯罪を繰り返す者もいます。現段階で検討されている内容のままでは、このような抜け道を防げない“骨抜き政策”と言わざるを得ません。署名活動を通して、この政策の重要性を多くの方に知っていただくとともに、より確実に子どもたちを守れる仕組みにする必要があります」と、「日本版DBS」がより強い効力がある形で実現することを求めています。
もちろん、個人情報や職業選択という観点から、働く側の自由や権利も守られる必要があります。政府ではこうした課題についても同時進行で議論されており、サービスを提供する側と利用する側がより納得できる在り方が検討されています。
専門家が警鐘を鳴らす、
現時点「日本版DBS」の課題とは
日本大学文理学部教授でこども家庭庁こども家庭審議会こどもの貧困・ひとり親部会委員も務める末冨 芳さんは、現状検討されている「日本版DBS」適用範囲について、次のように課題を指摘しています。
「『日本版DBS』の対象が学校と保育園のみにと報道されているのは、令和4年4月1日に施行された『教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律(わいせつ教員対策新法)』がすでに整備されており、DBSも導入しやすいという理由が考えられます。保育士も同様の仕組みが導入されています。しかし、このままでは犯罪を起こす可能性のある人が塾講師などの職種に流れるのが目に見えています。それどころか、自分自身で塾を開業するなど、より人目につかない場所で罪を犯してしまうこともあり得るでしょう。
DBSが実施されているイギリスでは、大人が子どもを虐待を含むあらゆる危険や人権侵害から守らなければならないとのセーフガーディングルールの下、『1日2時間以上、子どもに対面もしくはオンラインで接する仕事』の従事者、さらには学校ボランティア(日本で言うとPTA会員)までにもDBSが適用されています。日本もDBSの表面的な部分だけ模倣するのではなく、『責任者が認めた場合を除き、大人と子どもが二人きりの状態になってはいけない』『子どもに関わるすべての職種を対象とする』などのルールとセットで議論を進めていかなければなりません」
多くの著名人も賛同、オンライン署名が拡散中
署名の賛同者数は8月17日の18時時点で6万6千人を超えており、その数字は伸び続けています。また多くの著名人もこの活動に賛同し、次のようなコメントを寄せています。
「学習塾や習い事は義務化の範囲内から外されそうになっています。それでは意味がなさすぎるので、子供と関わる職業、無償ボランティアなど全てを対象にしてもらいたい!」
(医師・宋美玄さん ※X(旧Twitter)より引用)
「なぜ性犯罪の抜け道を作る?子どもを性犯罪から守るには塾やスポーツクラブ、キャンプなどのボランティアにもこの制度が必要なはずなのに。」
(コラムニスト・犬山紙子さん ※X(旧Twitter)より引用)
VERYモデル の東原亜希さんからは、親としてだけではなく、実際に現場で働く人の視点に立ったコメントも。
子どもも、働く人も守る仕組みを
「日本版DBS」で
「日本は、外国に比べて性犯罪に対する認識が甘いと感じることがあります。親自身も、お店のトイレに子ども一人で行かせてしまったりしますよね。だからなのか、実際に性犯罪が起こると被害者が泣き寝入りすることも少なくないようです。そうした人を一人でも減らす制度になってほしいです。それに、この制度によって真面目に子どもと向き合って仕事をされている方々も守られるのでは、と思います」(東原亜希さん)
タレントで性教育の活動にも力を入れているSHELLYさんも、制度への思い、そして署名することの重要性について話してくれました。
一人の署名が数となって積み重なり、
社会を変えていける!
「性犯罪を犯す人は見るからに悪そうな人ではなく、先生やコーチ、時には親のような『子どもが信頼している大人』のほうが実は多いんですよね。たとえば性犯罪を犯して教員免許を失効したような人でも、塾の講師など子どもと接する仕事に就けてしまう現状はナンセンスだと思います。1日も早く『日本版DBS』を導入してほしいです。今回の署名活動も、すぐに賛同しました。オンライン署名は社会を変えるための手段としてはかなりハードルが低く、誰にでもできる有効な意思表示の方法です。一人の力は小さくても、それらが積み重なり確実な数字となれば、本当に社会を変えることもできるんですよ。『私一人がやったって…』と思わずにぜひ参加してほしいです」(SHELLYさん)
オンライン署名の参加方法は?
オンライン署名に賛同するには以下のリンクにアクセスし、名前とメールアドレスを入力して「今すぐ賛同」をクリックするだけ(※ 初めて「Change.org」を利用する人は、その後に届く認証用のメールを開いて賛同ボタンを押さないと署名が完了しないので注意!)。
一人の署名が子どもたちを守ることにつながります。子どもに関わる身近な問題として、考えるきっかけにしてみては。
>Change.org 署名サイトはこちらから
署名に賛同している
VERYママたちの声を紹介!
「来春小学校に上がる娘は民間学童を利用する予定ですが、今の制度では学校以外で子どもを守るのには不十分。仮に我が子だけを守り抜いたとしても、きっと虚しさは続きます。さまざまな境遇にある『子どもたちみんな』を性被害から守るためにも、自衛だけに頼らない仕組みを整えてほしい。VERY世代なら傍観者でいることはできない問題、胸を痛めるだけで終わらせたくないですよね」(ライター増田奈津子さん・女の子2人のママ)
「『大人はいつも正しくて、優しい』が当たり前の子どもたち。信頼する身近な大人にいたずらに傷つけられることがあっては絶対にいけないと強く思います。ママやパパだけじゃない、子どもに関わるすべての人で子どもを育てる社会を現実にするために、まずは親が安心して周りに子どもを託せる環境づくりが何より大切なはず。私も活動に賛同します!」(ライター北山えいみさん・男の子2人のママ)
「少子化問題の観点からも、ただ子供を増やすだけではなく親が安心して子育てをできる環境づくりが本来の課題な気がします。そしてその中の一つに、性被害の撲滅もあると思います。学校や保育園などはもちろんですが、子供にとってのセカンドプレイス、サードプレイスこそが安心できる場所であることがとても重要ではないでしょうか。上辺だけではなくしっかりと子どものことを考え、守る環境が必要だと思います。日本版DBSをその重要事項として捉え、署名させていただきました」(ライター高橋志津奈さん女の子2人、男の子1人のママ)
取材・文/正伯遥子 編集/鈴木恵子
東原さん撮影/葛川栄蔵 SHELLYさん撮影/須藤敬一