──演技派俳優として、ドラマ・映画などで引っ張りだこの伊藤沙莉さん。3月25日・26日21時~放送のスペシャルドラマ『キッチン革命』(テレビ朝日系)の第2夜で主演を務める伊藤さんに、子ども時代のエピソードや仕事を続けるためのヒントをお聞きしました。
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「いつでもやめていいよ」と言われたから続けられた
──ドラマでは、周囲からの励ましも主人公たちが夢を実現する手助けとなります。伊藤さんは子役時代から活躍されていますが、家族から言われて印象に残っている言葉はありますか?
『キッチン革命』は、世の中を切り開く二人の女性の物語ですが、彼女たちを支えてくれる周囲の人たちがいたからこそ、不可能も可能になったのだと思います。家族からは「相手に対する感謝の気持ちを忘れないように」とよく言われてきました。仕事でもプライベートでも、「視野を狭くしないように。どうしてもやめたかったら、やめてもいい」とも言われていました。「やめられる」と思うと、意外とやめないものです。本当に無理ならあきらめていい、という最後の切り札があると思うと心強かったです。先輩ご夫婦から「離婚届はいつでも出せるようにしまってある」と聞いたことがあります。お二人が「いつでも離婚できると思うと意外と踏ん張れる」と話していたことに少しだけ似ているのかもしれません。私たちの仕事は会社員とは違って辞表はありません。心の中に辞表を置いておくというわけではないですが、「この道しかない」と思うのをやめると考え方が変わりました。いつやめたっていいのだから、やりたいことをとことんやってみようと考えるようになったんです。家族から言われた言葉は、仕事に対するモチベーションにもなっているような気がします。
子どもの「好奇心」を大切にしてくれた母親
──伊藤さんご自身の子ども時代はいかがでしたか?
我が家は経済的に余裕があるとはとてもいえませんでしたが、習い事などをやりたいと言って、NOと言われたことはありません。私が「強くなりたいから空手をやりたい」と言い出したとき、母は小学校で行われていた無料の体験教室に連れて行ってくれました。体育の授業みたいに色々な競技が体験できます。一度やってみると、たいてい熱が冷めて「もういいや」ってなるんですよ(笑)。私が飽きっぽいことを母はよくわかっていたんですよね。子どもが興味をもったことを尊重してくれたのはありがたかったです。お芝居もたまたまやってみたら楽しくて、「それなら続けてみたら」と家族に言われ今に至ります。三人きょうだいを育てる上で大変なことも多かったのに、子どもの好奇心を否定せず、色々なことを満遍なく体験させてくれた家族には、とても感謝しています。
「母さん代表」を目指さなくても十分すごいです
──春は、育休からの仕事復帰やお子さんの入園入学など「はじめて」のことが多い季節。「ちゃんとできるのか不安」という声も聞こえてきます。
最近、私の友人が出産したのですが、家事や仕事をしながら育児をするのは想像するだけで大変そうで、ただただすごいな、と……。思わず「できる自信がないな」とつぶやいたら、「私もいまだに自信はないけれどやってみたいし、今はとにかくやるだけ」と言っていて、何だか彼女がすごくかっこよく思えました。私は出産経験があるわけではないし、無責任なことは言えませんが、自分の経験上、「自信がなくて不安」というときは、他人からの視線が気になっているときが多いような気がします。お子さんがいる人は、「母さん代表」を目指す必要はなくて、その子のお母さんでいればそれだけでいいはずだと思うんです。誰にも負けない日本代表になれとは誰からも言われていないと思うので。子育てに限らず、言われなくても頑張らなくちゃと思う場面は多いと思いますが、「こういうお母さんでいなければ」と自分を追い込むよりは「こんなママがいたっていいよね」くらいの気持ちでいられるのがいいのかなと。私自身も未体験で知らないことばかりの世界ですが、子どもを一生懸命育てているということ自体、すごくかっこいいなと思っています。
伊藤沙莉(いとうさいり) 1994年5月4日生まれ、千葉県出身。A型。役への深い洞察力に裏打ちされた演技力は、シリアスなドラマからコメディにおいても評価され、ドラマ、映画、舞台にと活躍。主演を務める『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』が23年6月30日公開予定。
【食の革命】で日本を変えた女性たちの人生を描く2夜連続スペシャルドラマ『キッチン革命』(テレビ朝日系・2023年3月25日、26日21時~放送)では、第2夜の主役を務める。
撮影/秋山博紀 取材・文/髙田翔子