マイペース、競争心がないと思われることも多いひとりっ子。そんな中、「これからの時代はひとりっ子が一番伸びる」と力説するのは、進学塾VAMOS代表の富永雄輔さん。「親御さんは全くネガティブになる必要はないし、ひとりっ子はむしろ得です」と言う理由と、ひとりっ子を上手に伸ばす方法をお聞きしました。
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——先生は著書の中で、「これからの時代はひとりっ子が一番伸びしろがある」と書いていますよね(『ひとりっ子の学力の伸ばし方』)。今までは競争心やガッツがあるきょうだい家庭の子の方が伸びやすいと思われていたけれど、これからは必ずしもそうではないと。
富永さん(以下、敬称略):働き方改革や女性の社会進出が進む中で、いわゆる根性論や精神力に過度に寄らなくなって、さまざまな能力が必要とされる時代になっていると思います。勉強でもスポーツでも何でもそうです。自分が学んできたことをしっかり出すという点では、ひとりっ子だろうときょうだいがいようと変わらないわけで、「ひとりっ子であることにネガティブな要素がない」と言った方がいいかもしれません。あと一般論として、マイペースであることをひとりっ子のネガティブな特徴として捉えがちですが、これからの時代、マイペースさがないとやっていけない部分もあると思いますよ。むしろひとりっ子は得ですよ。
——得とはどういうことですか?
富永:親に余裕があるという点で有利ということですね。今の時代、親の選択が子どもの人生に影響を与える割合が増えています。僕が携わるサッカーの世界だと、昔は自分が通う小学校併設のサッカーチームに入るのが当たり前でしたが、今はいいチームを探して遠くまで通う子も増えています。塾もそうで、中学受験をする時に単に近いからという理由で塾を選ぶ人は少なくなっています。より我が子に合う塾、もしくは実績のいい塾を選んで多少遠くても通わせるわけです。そうなると、親の送迎の手間も増えますよね。まず何を選ぶかという情報収集の手間と、選択したことを継続するための手間や時間が必要となってくるので、その点でひとりっ子の方が有利だと思います。
——きょうだいだと、親が勝手もわかっているし送迎の問題もあったりして、同じところに入れようとなりがちですよね。
富永:今は公立ですら学区の中で選べたりしますよね。あとは、昔のように「ここに乗せておけばもう大丈夫」というレールがないんですね。レールがあった時代は、きょうだいがいようとひとりっ子だろうとそのレールにさえ乗せてしまえば、親のやることはお金を払うだけでしたが、今はどのレールに乗せるかがすごく重要で、習い事も学校選びも選択の連続になってきている。ただ塾に入れたら解決するほど簡単ではないんです。ありえないたとえですが、学校に行かずに月に何十万もかけて毎日塾で勉強していたら開成に受かるかといったら受からないですよ。テクニカルの限界がきているということですよね。お金を払う以前に、どれに対価を払うか考えるのは結構な重労働なので、親が情報を探す時間と余裕があるひとりっ子の方がより多くのチャンスを手にできるのではないかと。親に余裕があるのが一番大事ですね。
——ただ、ひとりっ子だとしても、親に余裕があるかというと必ずしもそうではなかったりするのですが……。
富永:お母さんが仕事をしていて忙しかったり、子どもにかけられるリソースも家庭によって差があると思います。逆に、お金と時間があればどこまででもできるけど、どこまででもやらせていいということでもありません。果たしてどこまでやるのかは親御さんに考えてほしいところです。最近はスポーツでも何でも、短い時間で効果的に練習をしようという風潮があります。それ自体は素晴らしいことですが、それで空いた時間をまた別のもので埋めなきゃいけないと思って、二足の草鞋どころか三足の草鞋にまでなっている。子どもが日本で一番忙しいですよ。月曜はプール、火曜は塾、水曜はピアノ、木曜は塾ってなるとなかなか大変だと思いますね。
——きょうだい家庭でも、第一子は必ずひとりっ子の期間があると思うのですが、ひとりっ子のメリットを享受できるのは何歳差からだと思われますか?
富永:僕は4歳差ぐらいだと思います。4歳離れていると受験やいろんなサイクルがずれるし、親もちょっと冷静に見られるんじゃないかなと。
——4歳以上ならいくつ離れていてもいいということですか?
富永:授かりものなので、子どもの年齢はコントロールできないということは大前提ですが、6歳以上離れるともう一度ゼロからのスタートだと思います。6年前の受験の情報はもう過去の遺物ですから使えなくなるんですね。ただ、それは悪いことではなくて、二人目はまたフレッシュな気持ちで臨むのもいいですよね。
——ちなみに、ひとりっ子あるあるなのですが、子どもにきょうだいが欲しいと言われたらなんて答えればいいのでしょうか。寂しい思いをさせているのかなと気になってしまう人も多いかと思うのですが。
「きょうだいがいるとおやつも取り合いだけど、◯◯ちゃんは独り占めできるんだよ!」とか「ディズニーランドに行ける回数が倍になるね」とか、ひとりっ子はこんないいことがあるんだよと言ってあげればいいと思います。こういうことを言うのはだいたい幼稚園や小学校低学年までですよね。一時的に寂しいとか遊び相手が欲しいという意味であって、友達がほしい、ペットを飼いたい、などと言うのと同じことだと思います。親の老後の面倒を一緒にみたいとか切実な話ではないですから。お友達をたくさん作れる環境作りをしたり、代わりの何かで補ってあげればいいのではないでしょうか。あまり深く考えずに、お母さんがひとりっ子に罪悪感を持たないことが一番大切だと思います。
お話を伺ったのはこの人
富永雄輔さん
進学塾VAMOS代表。幼少期の10年間をスペインのマドリッドで過ごす。京都大学経済学部を卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生まで通塾する少人数制の塾、「進学塾VAMOS(バモス)」を設立。入塾テストがないにもかかわらず、中学受験の第一志望合格率は7割を超える。現在吉祥寺、四谷、浜田山、お茶の水に校舎を構える。学習指導のみならず様々な教育相談にも対応し、年間400人を超える保護者の受験コンサルティングを行っている。また、各学校にも精通しており、中学校の紹介等をYouTubeで行っている。自身の海外経験を活かして、トップアスリートの語学指導、日本サッカー協会登録仲介人として若手選手の育成も手掛けている。近著『ひとりっ子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)
取材・文/宇野安紀子