■すんみさん(翻訳家)
小さな達成を 積み重ねることが 確実に社会を変えていく
私は、韓国でも保守的な土地柄といわれる釜山の出身です。文中でキム・ジヨンが経験することは、身に覚えのあることばかり。「これは私だけが特別に経験していることなのか、それともほかの人も経験していることなのか」知りたくなりました。誰かに読んでもらいたい、とすぐに友人にプレゼントしたほど。この本を読んだ者同士で「こんな経験した」と語り合う。そういうきっかけになる本だと思います。
ワンオペ育児は韓国でも問題です。親戚との付き合いは日本以上に大変。親族の家の集まりでは、お嫁さんがせっせと料理をするような慣習が今も根強く、不満があっても夫や家族と話し合って解決できる人は少ないです。結婚は当人同士のものというより家と家のつながりを重視します。最近は認識も少しずつ変わってきていますが、留守中、連絡もなしに義理の親が家に入って、冷蔵庫の中身を勝手にチェックされたなんて話も聞きます。かわって日本では、チョ・ナムジュさんとの対談で川上未映子さんも話されていましたが、「主人」というような言い方が今も主流としてある。それがマスターを意味する言葉という認識で使っているというよりも、昔からみんなそういうふうに言うから使っているだけだと思うけれど、言葉から受ける影響は思った以上に大きくて、潜在的に夫をたてなきゃという意識になるのではないでしょうか。
キム・ジヨンの通う小学校で、給食を食べる順番は先に男、後から女と決められているから女の子は男の子が食べ終わるまで待たされるという場面があります。ジヨンとクラスメートは先生にかけあってこの習慣を変えてしまう。些細なことですが、こうした小さな達成感を積み重ねることが確実に社会を変えていくのではないかと思っています。私がいま実践している小さな運動は、いろんなところに子どもを連れていくこと。この本のなかに「ママ虫」という韓国のネットスラングが出てきます。子連れの女性がカフェの席でおむつ替えをしていたとか、ママ友同士おしゃべりに夢中で騒ぐ子どもをほったらかしにしていた。あげくのはてに、子どもがけがをしたことにクレームをつけてきたとか、そういう母親がママ虫と呼ばれる。そのうち子連れ女性自体をママ虫と言うような風潮が生まれ、育児中の女性たちは、自分の行動ひとつひとつすごく気にするようになってしまいました。日本でも、ネット検索してみると、地下鉄にベビーカーを持ち込んでもいいのか悩んでいる母親が多い。読書会やトークイベントには若い世代もたくさん集まるのに子連れの女性はいません。みんな、周囲の空気を心配して連れてこないんだと思います。私はあらかじめお店やイベントの主催者に聞いてみて子連れでも参加可能と分かったら、Twitterで「この場所は子連れOK」とつぶやいてみたり。もうすこし育児中の人に寛容な世の中にしたい。私自身もちょっとずつ、小さいことから変えていこうと思っています。


取材・文/髙田翔子(82年生まれ!) 取材・文・編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2019年5月号「韓国で100万部突破!映画化も決定!『82年生まれ、キム・ジヨン』が 私たちに問いかけるもの。」より。 *掲載中の情報は、誌面掲載時のものです。









