■深緑野分さん(小説家)
日本のほうがましなのでは? 私は全くそんな感じは しませんでした
私は83年生まれですが、同世代の女性にとっての「あるある」がすごく多い小説なので、違う国の話、他人事だとはとても思えませんでした。読んでいてきつい小説ですし、ラストシーンは特に、「こうくるか」という感じで、きついのですが……。30代は子どもがいるかいないかでとやかく言われ、産んだら産んだで批判され、何かと標的になりやすい世代だと思います。今まで我慢したり、言語化できないもやもやを抱えていた人は多いでしょう。この本を読むと、こういうのが「普通」なのだから仕方ないとあきらめていたことの一つひとつが、「ヤバイことだったんじゃ?」と気づかされます。ジヨンの周囲の男性、夫も父親も弟も彼女の抱える苦しい気持ちを理解しようとしないわけではないけれど、どこかピントがずれている。あの感じは身に覚えがあってとてもリアルに感じました。印象に残ったのは、就職活動がうまくいかないジヨンが父親から「おまえはこのままおとなしくうちにいて、嫁にでも行け」といわれたときに、お母さんが、「いったい今が何時代だと思って、そんな腐りきったこと言ってんの? ジヨンは騒げ! 出歩け!」と言うシーン。そう言っ てくれる身近な女性がいるだけで励まされるし、助かりますよね。
周囲の同世代の女性たちは、表面的には感情を表に出さなくても、ひと皮めくると知的で自分の考えをしっかり持っている印象。それを表に出すタイミングをはかったり、どんな言葉を使うべきなのか気を使ってすぐには発言しない人が多いように思います。
この本で描かれる女性を取り巻く現状は厳しく、日本のほうがましなのでは? という意見もありましたが、私は読んでいて全くそんな感じはしませんでした。子ども時代の育てられ方は、韓国特有の男性優位の考え方が根強く、日本とは違うのですが。会社組織の現状や痴漢や性犯罪の被害は日本の現状のほうが深刻だと思います。この本が売れた背景を考えても、日本のほうが民主化も40年くらい早かったのに、今や社会の進化の度合いは韓国のほうがずっと早い印象。日本では、柚木麻子さんの作品のように、ストーリーの中に女性の生きづらさや苦しみを織り込んだ小説はあったものの、これほどまでに直接的に現状を書き連ねた小説はほとんどなかった気がします。日本人女性が同じテーマで書いたら批判も多かったでしょう。韓国のベストセラー小説として、女性の現状が冷静に受け入れられたことも、この本が翻訳されてよかった点だと思います。


取材・文/髙田翔子(82年生まれ!) 取材・文・編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2019年5月号「韓国で100万部突破!映画化も決定!『82年生まれ、キム・ジヨン』が 私たちに問いかけるもの。」より。 *掲載中の情報は、誌面掲載時のものです。









