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ヨシタケシンスケさん「“想像力神話”を子供に押し付けるのは無責任なこと」

『りんごかもしれない』や『もうぬげない』など、親子で夢中になれる絵本が大人気のヨシタケシンスケさん。6月に発売された新刊『あんなに あんなに』(ポプラ社)は、子育てと、成長・変化していく子どもがテーマになっており、子育て真っ最中のママたちからは共感のあとに最後は目頭が熱くなる、という声が多数届いています。独自の目線で切り取った日常の何気ないひとコマを、奔放な発想でどんどん展開していく絵本作りにファンの多いヨシタケさんに、今回は「想像力」をテーマにお話を聞きました。(全3回。第2回はこちら

 

 日常の中のちょっとしたことを、まずは大人が面白がるのが大事

 

ヨシタケシンスケ1 絵本

——ヨシタケさんの絵本って自由な発想、どんどん広がる想像が大きな魅力の一つだと思いますが、想像力ってどうやったら鍛えられるのでしょう?

「僕は元から想像力豊かな人間では全くなくて、子どものころは友達もいなかったし、時間の使い方としてあれこれ想像していただけなんです。すごくネガティブな人間なので、どうでもいい物事も細かく面白がっていかないと、自分がどんどん落ち込んでしまう。例えば『さっき道を歩いてたおじいちゃん、実は〇〇だったら面白くない?』とか『さっきの道端に生えてた木、変な形してたなぁ』とか、リハビリをするような感覚で、想像力を使って面白がるということをトレーニングのようにずっとやっていて、それが今たまたま仕事に役立っている、という感じです。

なので自分の子どもの想像力を育てようと心がけたりもしていません。でも、たまに子どもたちと公園や道を歩いていて銅像が立っていたときに『この銅像、なんて言ってると思う?』って妄想大喜利みたいなことをやったりします。『あのポーズだとなんて言ってると思う?』とか、『あんな高い場所に立って、どんなこと考えてると思う?』とか。大事なのは、ぐいぐい答えを聞こうとすると面倒臭がられてしまうので、先に親が『お父さんはこうだと思う』って何か言ってみるんです。『バスタオルとって!』とか(笑)。そうすると、じゃぁ…って感じで子どもからも面白いことが返ってくる。想像力をはぐくむための知育玩具や絵本を与えて、子どもの想像力だけを引き出そうとするよりも、親が一緒に楽しんじゃうほうがいいと思いますね」

 

 想像力って、そんなにいいものじゃない

 

——人の気持ちがわかったり、クリエイティブな才能を発揮したり、想像力豊かな子になってほしいと願うママ・パパたちが多いですが、想像力を伸ばすために親としてどんなことをしてあげたらいいでしょう?

「<想像力>ってなんだかすごくいいもののように世間では言われているけど、そんないいことばかりではなくて、諸刃の剣な部分がすごくあると思います。僕自身、一つのものからどんどん想像を広げていって…というのは、本を作るときには役に立ってるんですけど、悲しいニュースを見たり聞いたりすると、それが本当にリアルに想像できてしまって仕事が手につかなくなったりするんです。

想像力ってあればあるほどいいわけじゃなくて、自分を救いもするけど滅ぼしもするというか、使い方次第だと思うんですよね。例えば『あのお友達、自分にはこう言ってくれたけど影では全然違うことを言ってるのかもしれない…』って疑ったり邪推するのだって“想像力”ですよね。想像力のいい面ばかりに目を向けて、伸ばしたいと言う人が多いけど、本当は全部子どもに言わないとフェアじゃない。『想像力が豊かだといいらしいから伸ばそうね!空を飛べたらどんな気持ちだと思う?自由に想像してごらん』って、子どもに投げかけるのは非常に無責任な話。必要以上に誰かを疑ったり、何かを怖がってしまうのも想像力が豊だからこそ、なんですよね。自分や人を傷つけるかもしれないものだということを、親がまず理解しなくちゃいけない。そして“想像力神話”に頼らず、両方の面を子どもに教えてあげることが大切だと思います」

 

 『りんごかもしれない』を、りんごを見ずに描いた理由

 

——今ってなんでもすぐネットで検索できてしまいますが、それについてはどう思いますか?

「『りんごかもしれない』っていう絵本を書いたとき、僕、りんごを最初から最後まで一回も見てないんです。頭の中にある記憶から絵を描こうとすると、その対象のどこを見ていて、どこを見てないかが自分の中で可視化される。さらにもう一歩進んでいくと、正解じゃなくても<りんご>に見えるポイントはどこなんだろう、というのがだんだんわかってくる。どこまでがりんごに見えるのか、見えないのか。描いてみることでその境目がわかるんです」

 

『りんごかもしれない』より (ブロンズ新社 刊)

「でも、絵本を書き終わったあとにたまたまスーパーでりんごを見かけて、手にとって何を思ったかというと『これ、りんごにしか見えないなぁ』ってこと。手にとってしまうと、手触りとか重さとか輪郭とかでりんご以外のものに認識できなくなるんですよ。最初にりんごを買ってきてから絵を描こうとしていたら、あんな本は絶対に書けなかった。あの本に出てくるりんごってまん丸ですけど、あんな球体みたいなりんごって本当はないですよね。でも、りんごって、なんとなく赤くて丸くてこれくらいの大きさで…っていうみんなのぼんやりしたイメージには合っている。絵としては成立しているし、そこが面白かったりもするので、普段からも何かを知りたいとき、画像を見たいときもすぐに検索せずに、とりあえずまずは自分の中の答えを出してから、答え合わせとして検索するようにしたいなって思っています。『記憶スケッチ遊び』として、お題を決めて子どもと一緒にやってみるのも盛り上がるのでおすすめです!」

 

 

ヨシタケシンスケ あんなにあんなに

『あんなに あんなに』(ポプラ社)

子育ては「あんなに〇〇だったのに」の連続。あんなにほしがってたのに、あんなに心配したのに、あんなに小さかったのに——。日常にあふれるたくさんの「あんなに」の中で大人になっていく子どもの成長が描かれた絵本。子どもの飽きっぽさあるあるに共感しつつ、子どもの成長、変化に胸がきゅっとなるやさしい一冊。

\まるごと1冊読めちゃう動画も!/

◉ヨシタケシンスケ

絵本作家。1973年神奈川県生まれ。日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど多岐にわたり作品を発表。絵本デビュー作『りんごかもしれない』で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。『つまんないつまんない』で2019年ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞に選出。近著に『あるかしら書店』『もしものせかい』などがある。二児の父。

取材・文/北山えいみ 撮影/須藤敬一

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