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性教育ノベル第16話「赤ちゃんができるということ・後編」Byリンゴ|Girl Talk with LiLy

●登場人物●

キキ:雨川キキ。早くオトナの女になりたいと一心に願う。親友はアミ。大人びたスズに密かに憧れを持ち、第7話でついに初潮が訪れた。同じオトナの女になった喜びから、スズにガーベラをプレゼントした。

スズ:キキのクラスメイト、鈴木さん。オトナになりたくない気持ちと、すでに他の子より早く初潮を迎えたことのジレンマに悩む。両親は離婚寸前。小学校受験に失敗したことで家では疎外感を感じている。

アミ:竹永アミ。キキの親友で、キキと同じく早くオトナになりたいと願っている。大好きなキキと一緒にオトナになりたい気持ちから、キキが憧れるスズについ嫉妬。初潮はまだ訪れず。同じクラスの安達春人が妙に気になる存在に。

リンゴ:保健室の先生。椎名林檎と同じ場所にホクロがあることからキキが命名。3人の少女のよき相談相手。

マミさん:キキの母。ミュージシャン。

 

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Talk 15.

「赤ちゃんができるということ <後編>」

Byリンゴ

「実は、夏に、赤ちゃんが生まれるの。みんなが中学生になる春、先生も産休と育休をとって1年間、学校はお休み。だからね、先生も新しい出発! ずっと夢だったママに、やっとなれそうです」

言い終わる前から、「うわああああ!!」雨川さんが歓声を上げる。鈴木さんは、「おめでとうございます!」と言ったきりビックリした表情のまま口もとを両手で押さえている。私はゆっくり椅子から立ち上がる。

「わぁ、お腹、丸ッ!」「わぁ、触ってもいいですか?」

二人の声が重なって、私は笑って顔を縦にふる。いつの間にか、大きくなったお腹を後ろから支えるようにして、立つときに自分の背中に手をあてるのが癖になっている。

「あ!」私のお腹の上に鈴木さんが手を置いた瞬間、お腹の中の赤ちゃんがビクンと動いたので思わず声が出る。

「ええ!! 何これ! すごいッ!」

手のひらに振動を感じて興奮した鈴木さんに、「今の、赤ちゃんの足よ? キックしたね!」と笑いかける。

「えぇ! 私も触りたい!」と雨川さんも私のお腹に手をのせる。

「最近は赤ちゃんが元気に動いてくれるから、嬉しいの」

「………」

三人で息を鎮めて、赤ちゃんが動くのを待つ。三つの手のひらの下で、赤ちゃんも静まり返る。

「…あれ? 寝ちゃったのかな?」

雨川さんが上目遣いで私を見る。

「お姉さんたちに注目されて緊張しちゃったのかもしれない」

「何それ、かわいいねえ」

鈴木さんが目を細める。

「先生は、この会話がとても嬉しいな。赤ちゃんがいるんだって実感する。安定期に入るまでは、心配ばっかりしていたから」

「安定期って、なんですか?」

私のお腹からそっと手をおろしながら、鈴木さんが聞いた。

「たしかに、芸能人のニュースでも、安定期に入ったので妊娠を発表しますってよく聞くよね。赤ちゃんが安定するってこと? 」と、雨川さんが続ける。

「そう。妊娠って、とてもデリケートなものでね。女の人のお腹の中にある卵子に、男の人の精子が結び付くことで赤ちゃんができるでしょう? でも“赤ちゃんができる”といっても、卵子と精子が無事に出会いましたよ〜という段階が“受精”なの。

もうしばらく経過を観察しないと、そのまま無事に赤ちゃんが育つかどうかはまだわからないのね。と、いうのも無事に受精して着床はしたものの育つことができなくて、血液と共に赤ちゃんが外に流れてしまうことも、妊娠初期の段階では少なくはないの。だから、大事をとって安定期と呼ばれる妊娠5ヶ月以降までは、公表しない人も多いのね」

「あ、知ってます。流産、ですよね? マミさんが、あ、私の母が、私を産む前に2回経験したことがあるって話してくれて。すごく悲しかったって。だから、無事に生まれてきたことは奇跡なんだよって」

雨川さんが言い終わるとすぐに「だから、キキちゃんの名前! 奇跡なの?」と鈴木さん。

――――奇跡。

私は心の中で、改めてその意味を痛感する。赤ちゃんができたことも、今日まで無事に育ってくれていることも、当たり前のことでは全くないのだ。どうか、どうか無事に生まれてきてくれますように、と毎日神様に祈っている。

そして、今この世界にいるすべての子供たちが、神様からの奇跡的なギフトなのだ。

「女の人って、大変だよね。いっぱい血が出る。それだけでも大変なのに、そのたびにいろんな想いをする」

雨川さんがボソッと言ってから、「マミさんに聞いた話だけどね」とまた話し始める。

「お腹の中で卵子と精子が結び付くと、生理がこなくなるんだよね? 女の子は妊娠できる年齢になると、毎月子宮のなかに“赤ちゃんのベッド”を用意するようになるって。そこで卵子は精子がくるのを待っているんだけど、精子がこないと1ヶ月ごとに“古いベッド”は血液と混じって外に捨てられる、それが生理でしょ。

だから、生理がこないってことは“受精卵が中にきたので今ベッドを使ってます”のサイン。つまり、“赤ちゃんができますよ”って意味。

でも、そのベッドの中で赤ちゃんが育たない場合もある、と。女の人は、妊娠したんだ! ってビックリして、ママになる覚悟を決めたりしても、その直後に、また血が出て赤ちゃんが流れてしまうこともある。今度は、悲しみの涙とともに。それが流産だよね。

なんか、とっても大変だよね? もちろん、無事に出産になった場合も、そこでもまた大量に血が出るわけで。ああ、もう、カラダも心も、めっちゃくちゃ大変だよねぇ?」

深く頷いた私よりも先に同意の声を上げたのは、鈴木さんだった。

「うん。わかる。カラダと心もだし、人生もだよ。

私ね、受験の日に生理になって、初めて実感したの。不利だなって。だって、同じ学校を同じ日に受験する男子には、その心配はないわけだから……。よくよく考えたら、妊娠もだよね? 仕事を頑張ろう! って女の人が男の人と同じくらい強い気持ちで思っていたとしても、妊娠と出産をするのは女だもの」

「それはね、ほんとうにそうなの!」

言ってから、ハッとした。二人があまりにも賢いから、まるで自分と同世代の女友達と話しているような気持ちになってしまった。これは、とても大事なこと。真剣に伝えたいこと。だからこそ、上手に言えるだろうかと緊張しながら言葉を続ける。

「毎月の生理もそうだし、妊娠も出産も。確かにカラダにも心にも、女の子の方により大きな負担がかかるのは事実なの。だからこそ、女の子が生きていくうえでは、時には男の子以上に頭を使って賢く生きることが大事になるって先生は思っているの」

二人の目を交互に見ながら自分なりに言葉を選んで思いを伝えると、雨川さんが「それ、マミさんもよく言ってる」と深く頷いてから続ける。

「女の子はリスクがあるから、より賢く! って。何かのスローガンみたいに。あとは、女の三大出血事件をいかに幸せに経験するか、がハッピーライフをおくる鍵になるって」

「――――女の三大出血事件??」

鈴木さんの声が、私の心の声と重なった。

「そう。女の人生のターニングポイントになるビッグイベントには、出血がともなうからって。初潮、初体験、あとは出産!」

なるほど、と私が思ったところで、雨川さんは首を傾げる。

「でもね、よくわからないことが一つだけあって……」

なんだろう、と思っていると、意外なセリフが雨川さんの口から飛び出した。

「初体験って、血が出るの?」

「それは……。人にもよるけれど、処女膜が破れることで出血する人は多いのよ」

先生として、説明しながらも驚いていた。月経の理由から妊娠の仕組みまで、誰よりも上手に説明してくれた雨川さんだったから。

「処女膜ってなに? え、どうしてそれが破れるの??」

「え? もしかして……」

思わず私は言葉に詰まってしまった。鈴木さんの方を見ると「え? 私もぜんぜんわからない」と言って、顔にハテナマークを浮かべている。

「初体験が意味すること、はわかる?」

まずはそこから雨川さんに聞いてみると、

「うん。初体験って、その、初めてセックスをするってことだよね? それはわかるの。セックスをすると赤ちゃんができるって。でも、セックスって、男と女が裸で抱き合うことでしょう? 男のアソコと女のアソコがくっつくと、女のアソコの中に精子が入っていくんでしょう? でも、それでなんで膜が破れたり、血が出たりってことになるの? 今初めて疑問に思ったんだけど、そこ私、まったくわからない! スズ、わかる??」

鈴木さんも、雨川さんの突然の質問に首をブンブン横に振っている。

「そ、それは……」

戸惑いながらも、きちんと話すことを私は決めた。言葉をオブラートに包んで説明しても伝わらないかもしれない。そもそも、セックスは、恥ずかしいことではない。ここで私が変に恥ずかしがったりごまかしたりしたら、それこそ誤解が生まれてしまうかもしれない。

意を決した私が、そのまんま詳細を伝えると、

「え!!?????」二人から、ビックリするほどの大声が返ってきた。

「ウソでしょ?? え??? じゃあ、リンゴも、それをしたの???」

衝撃を受けて目をまん丸にしている雨川さんが叫ぶと、鈴木さんも今にも叫び出しそうな顔をして私をまっすぐに見つめた。

「ッ!!!!」

急に恥ずかしくなってきて、私は顔が真っ赤になる。そんな私を見て、雨川さんと鈴木さんがパチリと互いの目を合わす。すると、二人はどちらからともなく吹き出して、こちらがビックリするほど大きな声でゲラゲラと盛大に笑い出した。

今までのすべての会話が吹っ飛ぶくらいの大爆笑する二人を前に、私はボケッと立ち尽くす。そんな私の様子がさらに笑いを誘うのか、雨川さんなんて、笑いすぎてお腹を抱えて床に転がっちゃった。鈴木さんも、笑いすぎて目から涙が出てきている。と、思ったら、

「やばい! これはもうすぐにアミにも教えなきゃ!! てか、アミは? アミに早く話さなきゃ!! ね、スズ、行こう!!」と、雨川さんが突然真顔になって立ち上がる。

「先生、ありがとうー!! さようならー!!」

雨川さんに手を引かれた鈴木さんも、バタバタと保健室を出ていきながら最後にこちらを振り返る。

「あ、赤ちゃん、本当におめでとうございます!!」「おめでとうございまーす!」雨川さんの声も、後に続く。

「ちょっと、廊下、走らないで! 気をつけて帰ってね!」

私の声は届いているのかいないのか。バタバタと走っていく二人の後ろ姿を見送りながら、私はしばらくのあいだ呆気にとられていた。

あの伝え方で、良かったのかな……。あんなにウケるとは、思ってもいなかったけれど。箸が転がっただけで笑っちゃう年頃、とも言うし。たまたま笑いのツボに入っちゃったのかな。いや、でも、大丈夫だったのかな――――不安に襲われそうになったところで、私は思い直した。

あの子たちなら、大丈夫だ。

私の心配など及ばないところまで、彼女たちはどこまでもキラキラと、だけどしっかり賢く、それぞれの道を走っていく。

さっきまでジッとしていたお腹の子が、急にまた元気に動き出す。まるで、心配ご無用! とでもいうように。

どんなにこちらが心配したところで、最後にはこうして拍子抜けさせられてしまうように、子供たちはたくましく育っていく。この世界を、必ずハッピーに生き抜いてくれる。お腹の子も、みんなも、絶対に大丈夫だ。そう思ったら、また急に泣きたくなった。それくらい、今の私は、いちいち大きく感動してしまうのだ。

妊娠中、乱れるホルモンバランスには確かに苦労もさせられる。だけど、それもまた特別だ。感動が、いつもの百倍の強さで心を揺らす。だって、子供たちの未来を想像した瞬間、そのあまりに眩しさに涙まで出るって、とてつもなく素敵なことじゃないか。目尻の涙を指で拭きながら、私は女として生まれたことに感謝した。

またひとつ、素敵な後輩たちに伝えたいことが増えた。

女として生まれたからこそ不利なこと、リスクが大きいこと、大変なこと、確かにあるけれどそれだけじゃない。その倍、素晴らしい感動もグワッと胸に押し寄せる。だから、捨てたもんじゃない。ううん、むしろ最高、女って。

◉LiLy
作家。1981年生まれ。ニューヨーク、フロリダでの海外生活を経て、上智大学卒。25歳でデビュー以降、赤裸々な本音が女性から圧倒的な支持を得て著作多数。作詞やドラマ脚本も手がける。最新刊は『別ればなし TOKYO2020』(幻冬舎)。11歳の男の子、9歳の女の子のママ。
Instagram: @lilylilylilycom

 

▶︎前回のストーリーはこちら

性教育ノベル第13話「初めてのブラジャーと親友の初恋」Byキキ

 

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