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「人工肛門になっても人生は輝く」日本初のオストメイトモデル・エマさんの挑戦

  たとえば旅先や外出先のお風呂やトイレ。皆さんどうされているんですか?

「あえて、家族風呂のある旅館を探すのが楽しいの」と話してくれた人もいました。パウチ自体はお風呂に入っても漏れない構造になっているので大浴場での入浴も可能なんです。ただ、私自身も何回か温泉に行きましたが、深夜、人のいない時間を選んだりと、周囲の目は気になります。もし、「それは何?」と聞かれたら、「これは漏れないんですよ」と説明しなくてはいけないけれど、はたしてそれで伝わるかしらと身構えてしまいますし。オストメイト用のトイレも認知されてきましたが、本当に数が少ないので使えたらラッキーという感じです。オストメイトトイレは建物の規模等により設置基準は決められていますが、事業者負担が原則で国からの補助もないので、どの病院にも必ずあるわけではありません。聞いた話だと一つ作るだけでも1億はかかるらしいので、設置を決めてくれた方には本当に感謝しかありません。ちなみに病棟にもないことが当たり前の状態なので、手術直後に必須の便の計量も、狭い普通のトイレで「拷問か?」と思いながらやりました。

 

  テレビでは、オストメイトは着られる服が限られる。好きだったデザインのワンピースもあきらめるしかなかったと話していましたね。

海外にはオストメイト用の洋服や専用の下着もあるのですが、日本のアパレルはほとんど作っていません。私はユニクロのボクサーパンツを愛用しているのですが、これはパウチをパンツの中にインすることができるので、万が一就寝中に中身が溢れてしまったときに少しでもカバーしたいから使っているんです。男性は腹巻きをしたり大きめの服を買ってサスペンダーでとめたりしていると言っていました。入院中にナースから海外にはオストメイトモデルもいるということを教えてもらい、試しにインスタを見てみたら海外のオストメイトたちの明るく楽しそうなこと! 日本ではストーマになったことで絶望して自殺する人も毎年いると聞きます。オシャレで明るいオストメイトの様子を少しでも見せられたらその後の生活にも希望が持てるのに、と思ったことが、モデルとしての活動をはじめるきっかけになりました。

 

「見た目だけではわからないこと」を想像してみる

  これからやってみたいことや目標にしていることはありますか?

私自身もこうして服を着てしまうとオストメイトであることは見えないし、自分自身も忘れてしまうこと、パウチがないようにふるまいたいときだってあるんです。色々しんどいことや葛藤もあります。何もオストメイトに限ったことじゃないですよね。精神疾患など見えない障害のある人はたくさんいます。目に見えない障害って、気づかれにくい分、本人も家族もすごく大変なんです。

今、私はストーマがありますと言えるから楽になりましたが、今までの二十数年間は地獄だったんですよ。怠けていると決めつけられたり、鬱のせいだと言われて結果鬱病になったり。たとえ健常者であってもみんな何かしらのハンデを抱えていると思います。旦那さんや親御さんが介護状態だったり、お子さんが不登校だったり発達障害があったり。オストメイトの人が開示できないように、人に理解されづらい悩みを一人で抱えたり隠したりしている人は多いと思います。

ほんの少し想像力を働かせてみたら、うらやましいような生活をしている人だって悩みがあってそれを見せていないだけということに気づくはず。私だってそうです。「エマさんはハーフだし、痩せていてスタイルもいいから特別だと思っていた……」と本音を打ち明けられたこともありました。でも、それを医大時代の親友に話したら、「実は僕もそう思ってた。だけどそれでいいんじゃないかな」と言ってくれました。テレビ等では明るくふるまっていますが、胃を切除したので、適正体重まで増やしたくても太れず、体調が悪い日も多いのが現実です。

テレビ番組でもっとネガティブな部分を発信したほうがいいのかなとも思いましたが、考えてみればそうじゃないところにフォーカスを当てたくて活動してきたんですよね。それがなぜかといえば、医療って誰かに「希望」を与えることだから。長い間闘病していて、医療者としてキャリアは全くないけれど、オストメイト医師として誰かに希望を与える存在になりたいんです。ちょっと大きな目標になっておこがましいんですが、みんなそれぞれ人に言えない悩みがあって、それでも一人ひとりが少しだけ想像力を働かせればすごく温かい社会になるんじゃないかと思うんです。

「いろんな人がいていいじゃない」と。一朝一夕にはできないけれど、「バリアフリー」よりも濃淡のある「グラデーションワールド」がみんなの共通認識になったらいいですね。死の淵をさまよってからは、どうしても残された時間から人生を考えるようになりました。私の時間があとどれくらいあるのかわからないけれど、こうして今日も起きられた。今できることをしようと毎朝思います。

【1.2】私は、英国の航空会社のCAだった日本人の母、今は亡きイギリス人の父との間に生まれ、幼少期はイギリスで暮らしていました。【3】6歳頃の誕生日に家族と。【4】2015年、病院に向かうタクシーの中で。長らく療養していましたが体調が悪化し、緊急入院することになりました。【5】2017年、息子5歳のころ、一緒に暮らす猫のリナと。
【6】2019年、闘病中、の初詣。子どもの存在がなかったら、生きることをあきらめていたかもしれません。【7】息子は現在8歳になりました。以前旅した初島のホテルのプールで。 【8】2017年、胃の切除手術後に職場復帰した第1日目の写真です。その後ストーマ造設手術のため再度休職しましたが、昨年無事、職場に戻ることができました。
【9】一時昏睡状態に陥り生死の境をさまよった38歳のころ、どうせならやりたいことをやりきろうと一念発起。ボイトレをはじめ、2020年に歌手デビューしました。デビュー曲『Under my dress』のレコーディング中です。【10】お腹にあるのがストーマ(人工肛門)用のパウチです。私はこのような不透明タイプを使っているので中身が見えません。海外の明るくオシャレなオストメイトの様子に刺激を受け、現在オストメイト医師兼モデルとして活動を続けています。写真家の小林正嗣さんに撮影していただきました。

Emma’s History >>

1978年 0歳 日本人の母、
イギリス人の父の間に生まれる
1984年 6歳 日本女子大学附属豊明小学校入学。
その後、附属中学・高等学校に進学
1997年 18歳 慶應大学法学部入学、その後
同大学院政策メディア研究科に進学する
2001年 23歳 鹿児島大学医学部に学士入学
2004年 26歳 原因不明の腸閉塞により緊急入院。
闘病中、鬱病に。父、がんにより死去
2007年 29歳 国家試験浪人を経て、医師免許を取得
2012年 33歳 パートナー(医師)との間に息子誕生
2016年 38歳 胃亜全摘術。
ボイストレーニング開始
2019年 40歳 ストーマ(人工肛門)造設
2020年 41歳 歌手デビュー。NHKの
ドキュメンタリー番組に初出演する
2021年 42歳 現在、シングルマザーに。医師兼
オストメイトモデルとして活躍中

 

 

 

エマ・大辻・ピックルスさん

1978年、イギリス生まれ。慶應義塾大学法学部、同大学院政策メディア研究科を経て、鹿児島大学医学部医学科学士編入。東京大学法医学教室客員研究員兼東京医科大特任助教。がん研有明病院健診センター非常勤務医。16歳から難病である慢性偽性腸閉塞症(CIPO)と25年間闘病。2016年7月には胃亜全摘術、2019年の9月にはストーマ(人工肛門)造設するなど、患者として生死をさまよう経験を持つ。医師、日本初のオストメイトモデルとして活動中(ライムライト所属)。

 

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撮影/須田卓馬 取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr.

 

*VERY2021年4月号「オストメイトの医師 エマ・大辻・ピックルスさん 難病患者として 医師として シングルマザーとして人工肛門になっても……人生は輝く!」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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