VERYの連載「もしかしてVERY失格⁉」をまとめた『曼荼羅家族』で、小島さんが「ずっとお話ししたかった」作家・白岩玄さんとの対談が実現。男は女の体をモノ化していないか? という厳しい質問攻めに、男の性の「本当のところ」を誠実に語り続ける白岩さんとの白熱トーク!後編は30代に増えるセックスレス、夫婦の関係について、語りつくします。
白岩 玄 しらいわ げん☆1983年京都市生まれ。最近再放送でも話題になった『野ブタ。をプロデュース』で2004年文藝賞受賞。芥川賞候補にもなり、70万部を超えるベストセラーに。対談冒頭の「小説」とは、『たてがみを捨てたライオンたち』(集英社・¥1,600+税)。「男性の生きづらさ」に悩む3人の男性の模索を描く。
「セックス
しなくてもいい論」
小島 キラキラ主婦の愛読誌『VERY』の読者は、まだ30代なのに、セックスレスで悩んでる人が多いんですよ。
白岩 僕の周りにも、結構いますね。
小島 なんでだと思います? 忙しいから?
白岩 いや、単純に妻の体をそういうふうに見られなくなるんじゃないですか。
小島 それは『VERY』の物議を醸した特集、「妻だけED(勃起不全)」というやつですね。
白岩 だと思いますよ。だって、いくら忙しくても、ある日、目の前にすごく好みの女性が現れて、不倫の罪にも問われないとなったときに、それでもしないっていうのは、僕には想像つかないですね。相手次第では、やりたいっていう人が大半なんじゃないですか。
小島 しない人は?
白岩 それはもう、女性とそういう行為をすることに興味がなくなった人。でも、僕と同世代(30代)でそんな人は少ないんじゃないかと思います。単純に、妻の体を昔のようには見られなくなってるだけなんじゃないかなぁ。
小島 それは、妻の体形が変わって性的な幻想を重ねにくくなったのか、それとも関係が変わったからなのか。
白岩 複合的なものだと思いますね。僕も、そうした変化を問題なく受け入れられている部と、目をつぶってる部分と、両方混在してるんですよ。今のこの生活を一緒に作ってくれているっていう感謝もあるし、でも一方で、自分の性的な嗜好とか、どっか頭にあったりするから、フタをしてる部分もあるし。あとは、妻とのあいだに精神的な溝を感じていると、したくなくなることが僕にはあるので、それらがごちゃごちゃになってるんじゃないですかね。いずれにせよ、恋人として付き合ってたころのままの感覚でいられるかっていうと……。
小島 それはお互い無理でしょうね。女の人は出産したり授乳したりするとやっぱり変わるからね。男性も髪が薄くなったりお腹が出たりはするし。でも忙しくて、性欲自体がなくなるってこともあるのかな。
白岩 たしかに忙殺されるとそういう気持ちにはなりにくいかも。でも、僕の周りで性欲そのものがなくなった男の人はちょっと見たことがないです。
小島 マジですか。こんなに、世に、若きセックスレスがあふれているのに。てことは、「仕事が忙しくて性欲減退」はみんな、偽装なんですかね。
白岩 というか、一人でもしてないのかなっていう疑問が。そういう人は黒な気がする。
小島 あ、そうか。性欲はあるわけだな。
白岩 うん。自分の好みの何かはあるはず。
小島 ただ、別にセックスしなくちゃいけないわけでもないですよね。
白岩 そうですよ、お互いがそれで満足してればいいと思います。でも、どっちかがしたいと思ってて、もう片方がしたくない場合、それは溝になりますね。難しいところです。
小島 仲はいいけどしない、という夫婦もいますしね。
白岩 そういう夫婦って、親友っていう感覚が強い気がする。肌の触れ合いも嫌じゃないけど、親友とはそういう行為はしないよね、っていう感じ。本当に人間と人間で、気が合うからとか、一緒にいるのがラクだから、っていう。勝手な僕の印象ですけど。
小島 しかし、好きな者同士が夫婦になる理由ってあるのかな。法律上、夫婦でなくてもいいわけじゃん。まあ子どものことは別にして。
白岩 何らかの独占欲なのか、何かそこに友達では駄目な理由があるのか。
小島 なんで結婚しようと思ったのか。
白岩 最初は「男女」っていうふうに見ることができていたんじゃないですか。なんにせよ、本人たちが納得してるならそれで別にいいですよね。
「恋人」と
「パートナー」
小島 白岩さんも、結婚したときどうでした?
白岩 僕は一回、恋人だったときに妻と別れてるんですよ。20代半ばに付き合っていて、30前になって復縁して、そのときは「結婚を前提に」って。恋人からそのまま結婚という道をたどらなかったんです。
小島 恋人のときの関係とは違う関係ということ?
白岩 ちょっと違いました。既にパートナーとして見ていた。この先を一緒に生きていく人として。
小島 恋人とパートナーの違いは何でしょう?
白岩 その人の家族だったり、仕事だったり、その人の人生を含めて考えるかどうかですね。恋人のときは、そんなことは考えなかった。その人の家族も見えてないし、将来どういう道に進むとかも、正直そこまで興味はないというか。パートナーだったら必要ですけど、恋人って好きならそれで良かったりしますよね。だから、僕は復縁したときに、彼女の家族のことだったり、今後の人生の方向だったり、持っている世界観だったり、そういうものをこれからは共有したいという前提で。
小島 それは素晴らしいじゃないですか。恋人の感覚のまんま結婚しちゃうと良くないのかもね。
白岩 「他者性」というのは、僕の中ですごい大きなテーマで。自分の中に、どうやって自分ではないものをまるごと引き込むか、ということに悩んだ20代だったような気もします。結婚するまでは、それができない恋愛をしてました。
小島 他者を自分の中に引き込む……。
白岩 以前、恋愛小説を書いていて、編集者さんに「白岩君の書く男性は、女性と時間を重ねないよね」って言われたんです。その一言がすごい引っ掛かって。「俺、時間重ねてるつもりでいたけど、重なってないのかな」と思うようになって。結婚してみて、その意味がよくわかった。自分の中で完結していた。その人と関係性を重ねていって、その先にお互いの人生がある、っていうような、付き合い方はしてこなかったことを感じました。無自覚だったんでしょうね。だから、一度別れて良かったと思います。
小島 全てのカップルが、一回、別れてみるのもいいかもね。
白岩 おすすめしますよ。でも、一回別れてから戻りたいとお互いが思うのは結構レアらしいんで、それ自体が難しいことかもしれないですけど。
小島 やっぱり、結婚は恋愛の延長上にあるものではない気がします。後になって気づいたのですが。恋愛でうまくいっていた相手と、たまたま結婚もうまくいくということはあると思うけど、いい恋愛のできる相手がいい結婚のできる相手とは限らないですよね。恋人のときから、相手の家族のことだったり、将来のことだったり、生き方のことを含めて、最初から考えることのできる人って滅多にいないですし。
白岩 そういう人も確かにいますけど、若いときからちゃんとした恋愛してますよね。一人の人と一途にずっと付き合って。でもそんな人、もう誰かに取られてるから、恋愛市場には出てこないですよ。
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大黒柱ワーママとして日豪を往復しながら読者の悩みに寄り添い、
泣き、笑い、怒った、ママたちとの共感の記録。
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撮影/吉澤健太 取材・文・編集/フォレスト・ガンプJr.
※VERY2020年8月号「風俗からセックスレスまで 男と女の性のすれ違い 作家・白岩 玄さん対談」より