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「ウソじゃないよ。おめでとう、とは思ってる……」By アミ|Girl Talk with LiLy〜TALK8.

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illust. Shogo Sekine

●登場人物●

キキ:雨川キキ。早くオトナの女になりたいと一心に願う。親友はアミ。大人びたスズに密かに憧れを持ち、第7話でついに初潮が訪れた。

スズ:キキのクラスメイト、鈴木さん。両親は離婚寸前。大人になりたくない気持ちと、すでに他の子より早く初潮を迎えたことのジレンマに悩む。

アミ:竹永アミ。キキの親友で、キキと同じく早くオトナになりたい。大好きなキキと一緒にオトナになりたい気持ちから、キキが憧れるスズについ嫉妬してしまう。

リンゴ:保健室の先生。椎名林檎と同じ場所にホクロがあることからキキが命名。3人の少女のよき相談相手。

マミさん:キキの母。ミュージシャン。

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「ウソじゃないよ。
おめでとう、とは思ってる……」

by アミ

 

保健室から戻ってきたキキから、いつも以上に小さな四角に折りこまれた手紙を渡された。緊張しながらも、すぐに開いた。折り方が細かければ細かいほど秘密度が高い、ということになっている。

内容は、もちろん予想がついている。うん、そうだよね、昨日の喧嘩のこと……。

「ワッ!!」

授業中だというのに、思わず叫んでしまった。目の前の席に座るキキが「あぁもう!」って顔をして私のほうを振り返った。

その瞬間、フワッと揺れた髪からキキのシャンプーの香りがして、むくれて見せた横顔までキラキラして見えて、このまま二人で話がしたくてたまらなくなった!! けど、黒板の前に立つ南野が無言のまま目だけでまっすぐに飛ばしてきた怒りビームを受けて、仕方なく目線を机に落とす。

もう一度、今度はゆっくり読む。

 

「アミへ 月のものがきました。初めてナプキンしてるの、今!!

座っていてなんだかモゾモゾする。慣れないよ、でも嬉しい!!」

 

最初に読んだ時の驚きが消えたぶん、今度は心に一筋の影が落ちたように胸がザワザワした。4年生の頃から、ずっと二人で話してきた。生理のこと。

キキがどんなに初潮を心待ちにしてきたのか、私は誰よりも知っている。あ、マミさんの次に。つまり友達の中では私が一番、キキのことをよく知っている。

ずっと二人で楽しみにしてきた、生理が初めてくる日のこと。

でも、良かった。キキよりは楽しみにしていない自分をアピールしてきておいて、本当に良かったなって私は今改めて思っていた。

あぁ……、少しずつ、落ち込んできたのは、二つの理由から。

親友の大切な日に、一緒になって喜ぶよりもまずは自分の立場を守ろうとしている自分に気づく。キキのほうが私よりも先に生理がきたら、置いてきぼりの気持ちになるだろうなって思っていたけど、本当に今、そんな気持ちになっている。そして、私はわかっていた。背が低くて痩せっぽっちの私は、子供の頃から周りと比べて成長が遅いから、初潮だってずっと先になるだろうってこと。

だからこそ私は「どっちが先に生理がくるかな」って話題になるたびに「キキが先にきて欲しいな! 教えてもらえるから!!」って何度も口に出して明るく伝えてきた。キキが先にオトナになる未来を想定して、私なりの“保険”をかけておいたってわけ。

良かった、そうしておいて。これで、焦っていないフリをできる。

今、ブルーになっている二つ目の理由は、本当はキキと同じ日に初潮を迎えたかったから。自分のほうが先に、とは思っていなかった。

あくまで、一緒に。

同じ日に同じ経験をすることで、同じ気持ちで、一緒に喜び合いたかった、大好きなキキと。

キキの背中を見つめていたら、泣きたい気持ちになってきた。昨日の喧嘩も尾を引いている。何事もなかったように私に初潮の喜びを伝えてくれたけれど、キキはこれからどんどん大人っぽくなって、いつまでも小さくて痩せっぽっちの私にはきっと初潮はまだまだこなくって、このまま私たちの距離は開いていってしまうんじゃ……。

あぁ……。昨日、なんであんなに鈴木さんに対して嫌悪感を持ったのか、今初めてハッキリとわかってしまった。鈴木さんは、発育がいいのだ。体育の着替えの間に見た、ブラジャーをしている鈴木さんの身体は、オトナの女の人みたいだった。

スポーツブラをしている子は他にもいたけれど、鈴木さんは胸が大きいからそれでは間に合わないって感じで、普通のオトナ用のブラジャーをつけていた。

淡いピンク色のレースのブラジャー。見ていないフリをしたけれど、鮮明に記憶に残っている。それっくらい、羨ましかったんだと思う……。

地味な鈴木さんに、発育が負けていることが悔しかった。だから、キキと仲良くしているところを見る前から、私は鈴木さんのことを気に入らないって心のどこかでずっと思っていた。

あ、と思う。鈴木さんは、とっくに初潮を迎えているに違いない。初めてそう思ったら、点と点が線で繋がるような感覚がしてお腹の奥から黒い気持ちがブワッと吹き出した。

キキは昨日、保健室で、鈴木さんに生理の話を聞いていたに違いない。自分よりも先にオトナの階段を上っている鈴木さんに対して、尊敬とか憧れとか、そういうキラキラした気持ちになったのだ、きっと。

だって、私はキキのことを誰よりもよく知っている。キキは、鈴木さんのことを好きになったんだと思う。そして今日、キキにも初潮がきた……。

キキと鈴木さんが、男子の目線を気にしながらコソコソと、でもどこかウキウキしながら、小さな可愛いポーチを手に、二人でトイレに行く様子を想像してしまう。

「生理って辛いよね」とか「お腹いたいよね」とか、経験者しかわからない話をしながら、「生理だから保健室で休もう」とかってまた二人で授業を抜け出すのかもしれない。

その時、私は、どんな顔をしていればいいだろう……。親友の素敵なお祝いの日に、私は自分の心配ばかり……。考えれば考えるほど、これからの未来がどんどん暗いものになっていく。

 

「キキ!!!!! 本当に本当に、おめでとう!!!!!」

 

私はノートに涙が落ちないように気をつけながら、たくさんのビックリマークを書き込んだ。ページを破ったら、丁寧に小さく小さく小さく折ってから、前の席のキキにこっそりと手渡すつもりでいる。

 

ウソじゃないよ。おめでとう、とは思ってる……。

<つづく>

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◉LiLy
作家。1981年生まれ。ニューヨーク、フロリダでの海外生活を経て、上智大学卒。25歳でデビュー以降、赤裸々な本音が女性から圧倒的な支持を得て著作多数。作詞やドラマ脚本も手がける。最新刊は『目を隠して、オトナのはなし』(宝島社)。8歳の長男、6歳の長女のママ。
Instagram: @lilylilylilycom

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